超−1

『青い顔の男』

相当長い作品であるが、思いの外すんなりと読めた。文章が読みやすく、またストーリーそのものは長いが各エピソードがきちんと分けられているために、大きなストレスを感じなかったせいであるだろう。結構硬派なタイプの文であるが、重さを感じさせることは…

『レイアウト』

いわゆる“業界怪談”の典型的な話である。しかもグラフィックデザイナー関連の怪談話ではほぼ都市伝説化しているような鉄板の話である。ストーリーを読むか読まないかのうちに、おおよその展開を想像することも出来たし、実際その範囲で全てが展開してしまっ…

『嬲視線』

怪異としてはなかなか興味をそそる内容である。見えない何者かと浮気をする妻、そしてその見えない存在とのツーショットと考えられる写真の存在、さらにその見えない存在を紹介されて視線に怯える娘。ある意味物証と呼べるものは揃っており、単なる思い過ご…

『その声』

不可解な状況で人が失踪してしまう怪異譚であるが、作品全体の雰囲気が絶妙である。特に体験者と彼氏との電話のやりとりは、ちょっとしたチグハグ感から一気に事態が錯綜したただならぬ展開へと変化し、体験者自身の困惑した感情をしっかりと作り出している…

『雪上登校』

雪国ならではの習慣から起こる怪異譚であり、体験者の子供時代の思い出話という形を取っている。しかも会話も全て方言であり、ローカルさを全面に出してくることによって、古き良き怪談の雰囲気を醸し出していると言えるだろう。読んでいてホッとする印象を…

『見ないでよ!』

「怪談落語」のエロバージョンと言うべき、なかなか面白い作品。おそらく酒の席に語ったら大うけするような、小粒ながら非常によくまとまった怪異譚であると思う。 この作品の一番の肝は、女性のあやかしが言い放った「見ないでよ!」という言葉を、体験者が…

『赤いランドセル』

創作の手法に近い書き方をしているのであるが、それが却って裏目に出てしまった感がある。怪異の肝となる内容を時系列の流れの中に組み込まず、敢えて体験者の記憶のフラッシュバックとして話の末尾に置くという手法であるが、巧くはまってしまうと相当な余…

『バス通勤』

読み手の受け取り方次第で、評価がかなり割れそうな印象のある作品である。結論から言ってしまうと、怪異のレベルと体験者の心理描写に何となくギャップがあり、その差を書き手の丁寧さと取るか、あるいは大仰な表記と取るかによって、印象ががらりと変わる…

『よしえちゃん』

小さな子供が見えない誰かと話をすることから始まる怪異譚は、かなり多い。その相手は、身内の霊であったり、たまたま取り憑いた霊であったりすることが多いが、生霊しかも子供の生霊というのは結構珍しいパターンではないかと思う。それ故かもしれないが、…

『死化粧』

かなりの意欲作である。“あったること”を正確に達意の文章で記録するという王道のスタイルではなく、限りなく小説的な書き方で怪異の本質に迫ろうとしている。結論から言えば、おおよそその目的を達成しているのではないかという意見である。 一番の特徴は、…

『雨の日に』

話者自身の怪異体験から、祖母の切ない体験を誘導する形で展開するのであるが、はっきり言ってしまうと、怪異の内容と比べてとにかく話が長すぎる印象である。余計なことがダラダラと書かれているわけでもなく、書き手がジェントル・ゴースト・ストーリーに…

『思惑』

タイトルと冒頭の体験者のプロフィールを数行読んだだけで、おおよその顛末は読めてしまった。ただし、最後のエピソードが予想を上回る内容であったのが、良い意味での裏切りであったという印象だけが残った。 この作品の場合、怪異の内容が他人の内面の透視…

『「2ちゃんねる怪談」の怪』

怪異としては、一瞬のつもりが半日ほど時間が飛んだという感覚に襲われた、プリントアウトされていたはずの怪談話がそこだけ空白になってしまったという内容である。特に特筆すべきは、空白部分が出来てしまったという怪異であり、これは物理的な変化が明白…

『寿司電車』

仮にこの作品が創作であったならば、これら一連の現象が怪異であると認めることになるだろう。しかし実話である限りにおいては、これらの現象が全て実際に起こった内容であるとしても果たして怪異と言えるかどうかには大きな疑問符が付く。結論から言えば、…

『特化型賃貸物件』

文章そのものは、それなりに書き慣れているというか、生真面目にきちんと書くことが出来るという印象である。しかしその全体の構成を見ると、2つの意味であまりにも冗長すぎる。この冗長さのために、完全に怪異がくたびれてしまっていると言えるだろう。 最…

『先住』

厳しい言い方になるが、ネタが小粒で新鮮味に欠けるものであると、いくら新奇な味付けをしたところで怪談話としては全く面白味が出ることはない作品の典型例である。 賃貸物件で異様な気配を感じてそこで霊を目撃するという、いたってシンプルな内容である。…

『祖母』

いわゆる“怪談フォーマット”を活用してストーリーを展開しているのであるが、非常に違和感を覚える。フォーマットに従っているのだが、怪異に関する記述が全て祖母の独白によって構成されている点が違和感の正体であると思う。地の文で書かれているが、結局…

『路上教習』

車を運転している最中の怪異は多いが、路上教習となるとあまり類例を思い出さない。そして超常的な存在による悪戯めいた怪異もよく聞くが、古い墓とか錫杖と関係付けられた類例は記憶も定かではない。ある意味、かなり珍しい怪異ではないかと思うところがあ…

『風邪』

おそらく「語り」でサラッとやってしまえばそれなりに納得させることができるが、文字として残されて読み返すことが出来る状態では、どうしても弱さを感じてしまう作品である。 「語り」で練られる文章と、「読み物」として練られる文章とでは、やはり質が違…

『帰ってきたよ』

この作品の場合、実話怪談として最も根幹に当たる部分で問題が生じてしまっており、それ故に評価するに値しないという意見である。 この作品の怪異の肝と呼ぶべき部分は、無惨な姿で帰宅した娘さんの状況なのであるが、結局彼女が生身の存在であるのか、それ…

『逢魔』

おそらく減点方式で評価すれば高得点、加点方式で評価すればそこそこの得点で止まってしまうだろうという作品。要するに瑕疵は少ないが、それがない分だけ、引っ掛かりも少ないということである。 冒頭の体験者のコメントから、怪異の本題に入るまでの簡単な…

『私は人魂を見た』

非常に厳しい言い方になるが、果たしてこの書き手は本当の意味での“ホラージャンカー(怪談ジャンキーの意か)”と言えるのかという部分で引っ掛かりを覚えてしまった。 子供時代の体験であるが、説明の詳細さを考えれば、単なる目の錯覚や勘違いではない体験…

『彼岸より』

タイトルと、本題に入る前のエピソードで、どういう内容の怪異譚であるかは殆ど察しがついてしまった。いわゆる“死後の交信”と呼ばれるジャンルの典型的なパターンであり、内容としては古典的であるというべきものである。ジェントル・ゴースト・ストーリー…

『風船』

作品のタイトルは、何と言っても作品にとっては看板であり、読み手とのファーストコンタクトの場である。場合によっては、タイトルを見た時点で作品に対するイメージが形成されることもあるし、それが最後まで作品全体を支配することもあり得る。 特に怪談は…

『八割(はちわり)』

オチの“残念”ぶりがなかなかいい感じの怪異譚である。最初の母親の心配で不安げな雰囲気から徐々に状況が判明して、最終的に何ら危機がないと分かった直後に思い出したように明かされる“涎掛け”のインパクトは、当の本人でなくとも苦笑せざるを得ないところ…

『呪詛』

とにかく筆力はあるという印象。展開が非常に滑らかに感じるし、徐々に核心に移っていく流れはしっくりくるものがある。かなり書き慣れた書き手であると推測する。 しかし違和感を覚えるのは、タイトルにまで使われている「呪詛」という言葉を出してきた根拠…

『提灯』

小粒な怪異であるが、それなりに不思議な内容であるし、敢えて怪異に突撃してより一層深い追究をしなければ怪談として書くべきではないということもないわけで、これはこれで十分な怪異である。しかし表記や構成の面でしっくりとこない部分がいくつかあり、…

『母の日に』

怪異の内容としては、どこかで見たことがあるというレベル、また小粒という印象である。ただ適度な長さでスラッと読めるようにまとめられているので、怪談話としてはそこそこという評価である。登場人物の感情の流れを全く無視して“あったること”だけに圧縮…

『おせっかい』

怪談、特に“実話怪談”という作品を定義する場合、ある意味絶対的条件として考えてもよいのが「ありうべからざる怪異の存在」即ち「超常現象と客観的に呼べる内容」が含まれていることである。創作怪談では、最も広義の位置に“漠然とした不安”を基盤とした作…

『鋏』

内容と展開において既視感を覚えるほどの、典型的なパターンの怪異である。また、その怪異を見事なまでにステレオタイプの構成で書いている。文体もそつなくきちんとした印象であり、良くも悪くも普通というのが結論である。むしろ、その余りにもはまりすぎ…