『おまえら行くな』

“心霊系タレント”と言うべきなのか、芸能界には霊体験豊富な人々の一群がある。中には稲川淳二氏のように怪談語りが殆ど本業になってしまった人もあれば、知る人ぞ知るという人物もいる。北野誠氏に関して言えば、後者の感が強いように思う。とにかく本人の体験談がまとまった本になるのが今回が初めてなのだから、そのように感じるのだろう。


北野氏がかなり霊感が強く、かなり強烈な体験をしているという噂は知っていた。しかし関西では『トゥナイト2』の放送がなかったし、僕自身ラジオも聞かないので、北野誠と心霊がイメージとして直結することはあまりなかった。具体的な話では『新耳袋 第六夜』の幽霊マンションのエピソードぐらいしかなかったというのが、正直なところだ。だからこの本は“待ちに待った”という気持ちで読んだ。


いろいろな場所で断片的に聞き及んでいた話がきれいに並んだという印象である。個人的には後半の『トゥナイト2』の取材で遭遇した怪異の数々に惹かれた。芸能人の心霊体験は信憑性の点でかなり高いという意見だが(体験者本人が特定され、また一定のリスクを負っての告白だからである)、この一連の怪異譚はテレビで放映されたという、更に信憑性を高める条件が揃っている。内容を読めば読むほど、「見たかった」という気持ちが強くなるものばかりだ。特に新潟のホワイトハウス・京都の幽霊マンションの件は、本人の体験談として読めて非常に嬉しかった。また前半部分の、タレントとして世に出る前のエピソードも興味深い。伝説的な噂でしか聞いたことがなかった話を本人が証言するのだから、これも貴重であるとしか言いようがない。


この本についてもう一点好印象なのは、執筆者を明記したところである。タレントが書いたとされる本は、心霊系に限らずゴーストライターが存在していると言って間違いない(口述筆記というケースもあるかもしれないが、本人が原稿を起こして書いたものは、まずないだろう)。執筆したライターが怪談界ではビッグネームの加藤一氏だったから名前がクレジットされたという風にも受け取れるが、こういう形で併記されることは質の高さを保証しているとみなせるだろう。また実際、加藤氏が執筆することで恐怖の度合いを高める効果が出ていると言っていいだろう(「はじめに」の部分を読んで、北野氏が全編書いたらこんな感じになってしまうかもしれないと思ってしまったのは事実だ。これはこれで面白いのだが)。


満を持して登場ということになるが、いずれにせよ良質の本であると言っておこう。読む価値は十二分にあると思う。