2010-04-01から1ヶ月間の記事一覧

【−1】眠れぬ理由

“病院の怪談”としてまだ生きている人間の幽体離脱がメインとなる怪異譚は、かなり珍しいという印象である。 しかも入院している体験者に対して特別な災いをもたらしているわけでもなく、その点でも非常に希少な怪異であるという印象である。 おそらく怪異を…

【−2】蹴ったもの

前半で、体験者の認知した感覚についてしっかりと書いているにもかかわらず、最後でその感覚を根本からひっくり返すような表記をしている点で、大きな違和感を覚えた。 実際に体験者はそのあやかしと思しき存在に触れているわけで、それが最も説得力のある怪…

【−4】誰もいらない

書き手が訴えたいこと、書きたいことの全容は、おそらく誰が見ても明瞭に解るぐらい明瞭であるし、その熱意と筆力にはある種の感銘を受けると言ってもいい。 しかし、その主張が“怪異”ではないところに、この作品の致命的欠陥がある。 青年の孤独死から始ま…

【−3】どうでしょう

厳しい言い方になるが、書き手の目論見がことごとく裏目に出てしまったと言わざるを得ない。 怪異についてであるが、詳細を書けば書くほどあやかしがどのような状態であるのかが分からなくなってくる。 突き出た足を“シンクロナイズドスイミング”にたとえる…

【+5】鬼を見た

怪異が起こった当時の雰囲気が文章の中で再現されていると感じるところであり、民俗学的な情報もかなり詰まっているとも思うほどのしっかりとした内容である。 そして何といっても怪異そのものの凄惨さ、さらにはその描写の緊迫感といい、まさに一級品の怪談…

【+1】抜いてはいけない

昔の記憶なので完璧ではないが、福岡の旧犬鳴トンネルへ行く道すがら“幽霊がいる”という看板があり、そこでは霊体と思しき写真が撮れたという話を聞いた覚えがある。 面白半分に立てられたのかは分からないが、そのような雰囲気を持った場所で遊び半分でもそ…

【−1】警告か妨害か

怪異に携わったことをやっていると、怪異に出くわす確率は高くなる。 特に“怪談を書く”行為は、最もあやかしを刺激するのか、霊感がないという者でも何らかのトラブルに巻き込まれることが多いと聞く。 そして、過去の“実話怪談”の著作でも、書き手自身が執…

【+2】バンジージャンプ

“あったること”だけをしっかりと書き綴ることが出来れば、きちんとしたものに仕上げることが出来るというお手本のような作品である。 時系列を逆転させている部分はあるものの、おおむね顛末を順序よく書き、取りたてて奇抜な工夫もすることもなく書いている…

【+1】天国

非常に判断の難しい作品である。 努めて冷静に書いているものの、どうしても体験者の義母に対する恨み辛みというものが透けて見えてくる印象が強く、ある意味客観性に欠けるきらいがあるように受け止める部分がある。 しかしこの作品の場合、この偏った見方…

【−2】櫛

全体的な話の流れにおいて不自然な点がかなり見られたために、かなり身構えて読んでしまった。 経済的な理由で転院しながら個室に入院という最初の段階からつまずいてしまったし、またすぐに鎮静剤を打つ手際のよい看護師の登場(そのくせ妻の悲鳴にはほとん…

【−6】家族

最後の一文の存在で、書き手がこの作品をどのように位置付け、読み手に対してどのような意図を提示しようとしているのかという点において、問題外という判断を下した。 はっきり言ってしまえば、この作品に対する書き手の思い入れというものは全くなく、読み…

【−2】生兵法

もし仮に創作も含めた怪談も可であれば、この作品に対する評価は非常に高いものになっていただろう。 狐憑きと思しき患者を前にして覚えたての呪法を施したら、案の定その患者が猛烈に反応したという内容であるから、まさに思う壺に近い結果を導き出した展開…

【−2】冷たい手

起こっている怪異そのものは不思議なものであり、非常に感覚的な体験であるが、言を費やして描写説明をしているので信憑性の高い内容になっていると思う。 また怪異に遭遇した体験者の心理もしっかりと書かれており、その時の緊迫した状況というものが見て取…

【−3】今もあるんです

起こっている怪異はいくつかあるのだが、結局客観的な物証となりうるものほど適当にあしらわれた感じで書かれており、書き手自身がしっかりとした怪に対するスタンスを持っていないのではないかと感じた。 特に最後の最後で“数珠が弾けた”といかにも大した怪…

【−5】夢、あるいは……

体験者が、果たして本当にこのような体験をしたのかという、非常に根本的な部分から疑問を感じてしまった。 体験者自身が駅で遭遇した女に関するコメント自体が、非常に曖昧で要領を得ないものであるという印象が強いのである。 遭遇した女の話している内容…

【+1】雪桜

“動物ネタ”定番の、お涙頂戴の文章とはややおもむきが異なるという印象を持った。 全体的に感情をダイレクトに表現する言葉を抑え、体験者と犬の交流も描写中心でまとめ上げたために、ウエットではあるもののべたついた印象は皆無であり、いわゆる嫌味のない…

【+2】最後の封印

大ネタになり損なったという感が非常に強い作品である。 怪異の内容については申し分なく、とりわけ興味を覚えたのは、間違って本物のお札を剥がしたために封印が解かれてあやかしが現れたという部分。 まさに小説や映画を彷彿とさせる展開であり、ここらあ…

【0】なげき

怪異としては小粒、それを上手くまとめたという感じの作品であり、良くも悪くも標準的なレベルの作品であると言ってしまって終わりそうである。 おそらく書き手としては、『なげき』というタイトルから察するに、現代社会の殺伐とした空気をこの怪談の中で訴…

【0】生ソーセージ

廃墟探検で怪異に見舞われる話の中でも、“一緒に行ったはずの者が全く違う記憶しか残していなかった”という怪異のパターンは、よくある話のレベルになりつつある。 この作品の場合も、話者は実際に廃墟に入ったとしながらも、もう一方は入っていないと言う。…

【0】待合室の夜

結論から言ってしまうと、怪異の内容と文章の長さが合っていない、つまり怪異と関係ない部分の記述が冗長すぎてかなりだらけた印象を持ってしまった。 特に怪異が起こるまでの、体験者の母親に対する怒りのぶつけ方がしつこすぎる。 例えばこの怒りが怪異の…

【+5】闇線歴

“タコ部屋”という言葉から北海道の裏面史を思い出し、手がかりとなる土地関連の表記を洗い出すことで、おおよその場所を確認できた。 完全に合致する場所はなかったが、“観光地のダム”はS湖、“十一町村結び、昭和7年に全線開通の路線”はH線ではないかと推…

【+3】生き甲斐

怪異としては、いわゆる“霊が死の予告に来る”という病院ネタの定番であり、“前に死んだ者が予告をしに来る約束”や“確実に3日前に来る”という明確な特殊性は認められるが、さほど珍しいものではないと言えるだろう。 “あったること”だけを淡々と記録するとい…

【−1】パラパラ

怪異の内容から考えると、本来は“投げっぱなし”怪談とすべきだったものを、変な引っ張り方をして却って胡散臭いものにしてしまったように思う。 おそらく体験者自身がスキャン前の現物を見ることはないので敢えてその部分はパスするとしても、その映し出され…

【+1】擬態

最初に突っ込んでおくが、タイトルは明らかに誤り、怪異の内容からすれば『擬声』あるいは『擬音』とするべきだろう(“擬態”はあるものの形状を真似ることであり、決して鳴き声を真似する場合には使わない)。 展開であるが、体験者が“耳鳴り”についてかなり…

【+3】コロコロ

幼い子どもが体験した怪異であるが、実に希少でなおかつほのぼのとした印象が強く、まさに“現代民話”と言ってもあながちおかしくないような話である。 出てきたものが“直径50cm”の丸い形をした品物ばかり、それがコロコロと目の前を通り過ぎるだけの怪異で…

【−5】まさか

全く関連性のないものを無理やり繋ぎ合わせようとして失敗した作品であると言える。 体験者の身の上に起こった“体調不良”が、果たして取引先の社長の自殺とどう関係あるのかの決定的な根拠が全くと言っていいほど提示されていない。 ほとんど同時と言ってい…

【0】抽斗より

良い意味でも悪い意味でも、安定感のある怪異の内容である。 全体の構成や文章の長さも怪異のレベルに合っており、怪異の本質を損なうことなくしっかりと書かれていると言えるだろう。 抽斗から腕が伸びて何かをやっているという展開は、怪談としてはある意…

【+4】真意

強烈な怪異譚である。 特にそのおぞましいまでの恐怖は、会うごとに変貌を遂げる友人の霊体の表情である。 書き手は最初からその変化を強調させるために、最初に自らの死を伝えに来た霊体の描写の部分からしっかりとその表情や雰囲気を書き留めている。 それ…

【−3】最後の親孝行

一読した直後の正直な感想は、“新興宗教団体の機関誌に掲載された信者の体験記”というところである。 真摯に書かれているがとにかく冗長であり、またまばゆいばかりに輝く“思いやり”の精神が溢れており、心が洗われるがかなりヘビーな気分になってしまうとい…

【+1】いつも来るとは限らない

作品全体をほんわかとした雰囲気が包み込んでいる印象が残った作品である。 恐怖が一瞬走ったのは、最初に現れた女のあやかしの場面だけ。 それもどちらかと言うと軽く流す感じで引っ張らず、メインである次の怪異へとうまく繋いでいく。 女のあやかしの描写…