【+5】闇線歴

“タコ部屋”という言葉から北海道の裏面史を思い出し、手がかりとなる土地関連の表記を洗い出すことで、おおよその場所を確認できた。
完全に合致する場所はなかったが、“観光地のダム”はS湖、“十一町村結び、昭和7年に全線開通の路線”はH線ではないかと推測する(路線の方はもしかするとS湖そばを通っていたS線かとも思ったが、廃線が“海岸”に近いというニュアンスの言葉に引っ掛かった)。
S湖はまさに“タコ部屋”労働による犠牲者が多数あったことで有名な場所であり、それなりの記録性を帯びていると言えるだろう。
そして肝心の怪異であるが、非常に克明で、その凄絶で執拗な印象を強烈に与えてくれる。
面白半分で行った裏面史の舞台で怪異に遭遇、そして1回の謝罪では済まされず、関係者である父親の助力でようやく解放されるという、これでもかという祟りようは、ここで命を落とした者の無念さそして怨みの凄まじさを彷彿とさせる。
また体験者が霊によって受けた霊障が、“タコ部屋”のリンチの内容(全身を殴る蹴る、顔だけ出して土中に埋められる暴行など)と符合する点は見逃せないものである。
前置きである過酷な労働の裏面史の蘊蓄を最大限に利用し、その整合性を高めていると言えるだろう。
“怪異”の記録としてほぼ完璧(“完全”とは違うことを敢えて強調しておく)に近い内容であり、その迫力は書き手が渾身の力を込めて書きだしたものであると感じさせる。
“戦場の怪談”はあと数年ほどで原体験者がいなくなるので希少だと言い続けているが、この“北の残酷史”は既に原体験者を失っていると考えられるため、この希少な体験は特筆ものであると言える(“南の残酷史”である沖縄戦などと比べるとまだまだ認知度も低く、こういう形で当時の凄惨な事実が記録として残ることを切に願いたい)。
“実話怪談”としても非常に完成度が高く、また貴重な歴史証言の一つとしても絶対に残さねばならないという思いを強く感じさせる故に、この評価は当然の帰結であると思う。
最高評価としなかった理由は、ただ“エポックメーキング”を感じなかったという点に尽きることだけ付け加えておきたい(逆に言えば、オーソドックスなスタイルの怪談としてはパーフェクト級と断言しているわけだが)。