2007-02-01から1ヶ月間の記事一覧

【−5】白い顔

前回の大会でも明言していたのだが、いやしくも文章によって新しいものを創出しようと試みる者が、他のクリエーターの生み出したものを使って表現しようとすることはアンフェアである。 特に“実話怪談”を書くのだから、他の人の創作物を想起させるような記述…

【+5】ジェイムシーズ

怪異のネタとして第一級クラスのものであると思う。 一人の人間の分身体が複数存在するのが確認される、しかもそれが数珠繋ぎのように目の前を通り過ぎるなどという話は初見であり、この希少性は信じがたいほどの高さである。 また文章の組み立てが非常に巧…

【0】通訳の必要性

読み終えて、“怪談話の楽屋落ちネタ”という言葉をふと思いついた。 海外旅行中のホテルで怪異が発生した時、必ずとばっちりを受けるのが添乗員という図式を思い出して、何だか妙に納得してしまった。 だが、この作品はその舞台裏をコミカルに書いただけで、…

【+1】百物語その後

怪異の肝が“夢”として語られる怪談話は、どうしても印象が良くない。 体験者の無意識が働くとか、現実の出来事と無理にこじつけようとか、そういう解釈で片付けることが可能だからである。 この作品の場合、まだこじつけめいた印象は薄いのだが、細かな部分…

【+2】万力

次々ととんでもない怪異が続き、それを時系列的に描写した内容である。 書き方の手法としては正攻法であり、特別奇を衒ったところもなく、真面目に書いているという印象である。 怪異の一つひとつが異常性の高いものなので、あまり凝ったことをしなくても十…

【+1】虹色

非常に評点のつけにくい作品である。 普通の“1ページ怪談”と印象が違うのが、黒い虹の存在が個人的な一回性の強い体験ではなく、“村全体”の日常的体験として書かれている点である。 この特異性が作品全体の印象を微妙なものにさせていると思う。 黒い虹を“…

【+2】つまみ食い

すれ違った人に霊体が張りつくようにくっついているのを目撃する話は、それこそありきたりの内容である。 だがこの作品では、霊の声と共にアイスクリームが消失するという奇怪な現象が起こっている。 この不思議な現象によって、格段に価値のある内容に仕上…

【+2】乾麺

凄いと言えば凄いし、大したことがないと言えば大したことがない。 ある意味、実話らしい実話と言うべきネタ内容である。 怒りによって物を破壊する能力が恐怖の対象であることは確かであるが、その破壊した物が乾麺なのだから、少々締まりがない。 この変な…

【0】アルバイト

この作品も、前半に全く不必要なあらすじが書かれてある。 またその内容が怪異と結びつきそうな感じのするものであるから、変な先入観が出来てしまった。 タイトルもその前半部分の事情を表すものであり、怪異の肝とは全く関係がないものである。 作者が怪異…

【+4】黒玉

昔語りというような懐かしい雰囲気を出しながら、結構奇怪な話に仕上がっている。 文章は方言を使った語りの部分を増やすことで雰囲気を作り、きびきびとした描写によって状況を活写していると言うべきだろう。 全体として締まりがあり、またスピーディーな…

【−2】悔恨

表記・ネタ共に中途半端さが残る作品だと思う。 まず、この話は恐怖感を煽るものなのか、感慨を伴わせるものなのか、作者の方向性が見られない。 そのあたりの表記がものすごく中途半端に感じる。 「今まで経験したことのない恐怖」と強調しながら、その恐怖…

【+1】駅の人混みで

死後に現れた行動を通して、亡くなった人の人柄を偲ぶというコンセプトで書かれたものだろう。 仕事仲間の目撃証言を克明に表記し、恐怖感よりも感慨の方を優先させる書きぶりである。 さらに最後の数行でそれらの思いを強くさせようという作者の意図が見え…

【−1】ちどり足すくみ足

怪談話の信憑性を増すパーツとして、また怪異のリアリティを維持する表現として、ディテールは欠かせない存在である。 それ故、きっちりディテールが書かれている作品は評価を高くし、その部分で言葉が濁されている作品は眉に唾を付けて読みにかかるようにし…

【0】石油ストーブの灯火

やたら装飾的な技法が多いのだが、まだそれらを使いこなすまでに至っておらず、読者を惑わせるだけの効果しかなかったようである。 一番に引っかかったのは、2段落目の冒頭部分である。 唐突に「正月の時」の話と書かれても、最初に「居間でストーブの近く…

【0】回るんですぅっ!

本題よりも前置きの方が迫力があって、しかも強烈なインパクトを残してしまった。 本題の方は、タイトルの付け方や、登場人物の少々強引なキャラクター作りなどから、コミカルな雰囲気を出したかったように思うのだが、前置きの生理的嫌悪感を伴う表記によっ…

【+3】海神祭

地元の風習や祭にまつわる怪異は、不気味でありながら何か美しさを感じさせる。 特にこういう負の存在を祀り、それが連綿と受け継がれている風習には、何やら秘密めきながら暗黙の了解によって守られているという微妙なバランス感覚を覚えてしまう。 この作…

【−1】漂流

結論から言うと、これだけの怪異では“投げっぱなし”にせよ“1ページ”にせよ、インパクトに欠けるということである。 つまるところ幽霊目撃譚だけであり、その霊体についての情報が圧倒的に少ないために、単に「見た」という事実だけが書かれているに過ぎない…

【0】オモリ

少々不謹慎な表現であるが、いわゆる“ご当地”怪談と言うべきものである。 明治時代、北海道の開発に政治犯などの囚人が駆り出され、その多くが寒さと飢餓のために死んでいった。 しかも死んだ後も埋葬されず、セメントや土砂の代わりに埋められたりした遺体…

【−3】自爆

怪談の信憑性にかかわる問題が生じる部分とは、怪異自体の発生にまつわるところではなく、むしろ怪異同士の連携や、怪異にまつわる周辺事項に集中しているように思う。 現実的でない怪異については、作者自身も慎重にリアリティーを維持しようとする意思が働…

【+5】浜辺

純粋な“戦争怪談”として珍重すべき作品。 “戦争怪談”を語れる直接体験者は多分この10年で絶無に近い状況になるだろう。 特に戦場の怪談の体験者は年齢的に80才を超えており、現在最も収集・記録が急がれるといっても過言ではない。 しかも内容が、南方の…

【+2】じゃっじゃっ

何とも味のある怪異である。 またそれを活かすための文章が内容・量ともに適切であると感じた。 音に反応するあやかしだが、読経などの声に対して反応するケースはあっても、特殊な音にだけというのはあまり聞いたことがない。 しかも音の出所を間違えてしま…

【+1】無縁仏

無縁仏の霊を怪異の肝に持ってきて、最初からそれなりに話を積み上げていく作品という感じで読んでいた。 ところが、である。 やはり移動できていない無縁仏があって、それで全てが解決したと思われた矢先、突然体験者から「これで終わっていない」という訴…

【0】金縛らず

まず最も気になったのは、なぜここまで“金縛り”にこだわるのかであった。 怪異の現象を分析しても、全く金縛り状態にはなっていないことがわかる。 むしろ意識過剰なのは体験者自身だけであることに気付く。 怖くて身体が動かないということだけであって、体…

【+4】奇禍

連鎖する怪異の典型であるが、ここまで連続すると、ちょっとした怪異でも恐怖感を煽ることが出来る。 だが、この作品では運転手の状況が後になればなるほど深刻になっているから、さらに恐怖感がアップするように感じる。 最初の2人は事故に“巻き込まれた”…

【+4】禁域

入ってはいけない異界の入り口で怖い目に遭った話はいろいろあるが、自傷行為にまで至らせるものはなかったと思う。 それだけこの魔なるものの存在は強烈だ。(邪悪というよりも、そういう生け贄を欲する点で荒ぶる力を持っていると想像される) また異界に…

【+2】枝の上

父親の戒め、枝の上の小人、自殺したカップル、この3つの話の絡み具合が凄く微妙である。 不条理ではないが、因果関係がありそうかと言えば断定できるほどの証拠もない。 謎が多いとしか言いようがない。 だから“実話怪談”として書くと、多分この作品のよう…

【−2】誰の?

作者が想定した怪異の肝と、実際の怪異の内容にずれがあるように思う。 タイトルからして、髪の毛が窓の外を横切った不思議よりも、カツラという概念にこだわりすぎているように見える。 そのせいか、髪の毛に関するディテールが絶対的に不足している。 例え…

【+5】蔵の中

“実話怪談”云々を超越して、久々に本物の【王道怪談】を読ませていただいた。 怪異そのものを克明に描写することで読者に圧倒的な恐怖を味あわせるものが昨今の怪談話の主流であるが、戦前の怪談(特に文芸怪談)では、怪異の周辺を際立たせることで“障子に…

【+2】直立

海のレジャーをする人が体験する怪異の中でもかなりのものだと思うのだが、どぎつい恐怖感というものが伴っていない。 その原因は、作者による体験者のキャラクター作りにあるように感じる。 関西弁でまくし立て、豪快にビールを飲み干すオッサンという、か…

【+1】不眠症

妹の不眠の原因が、死んだばあちゃんの不眠の訴えだったという、なかなか結構なオチのある怪談落語である。 文章自体もかなりきれいに刈り込んであって、すっきりとした印象を受ける。 ただ、ちょっとあっさりと進めすぎているような感じもあるので、体験者…