【+4】禁域

入ってはいけない異界の入り口で怖い目に遭った話はいろいろあるが、自傷行為にまで至らせるものはなかったと思う。
それだけこの魔なるものの存在は強烈だ。(邪悪というよりも、そういう生け贄を欲する点で荒ぶる力を持っていると想像される)
また異界に入っている時に体験者が感じている空腹感に対する心理描写も切実に感じられるし、そして何と言っても、手のひらに出来たブツブツのリアルな描写は、たまらないぐらい生理的に受けつけられない光景である。
さらにそのブツブツを美味そうにむさぼり囓り取る場面などは、狂気に似た鬼気迫る情景がストレートにイメージ化できるレベルである。
単なる異界彷徨譚とはかなり趣を変える内容は、インパクトがありすぎるぐらいである。
また元の場所に戻った後に出会ったおじさんの後味のよくないリアクションも、この怪異がただならぬレベルであることを暗示しているだろう。
非常にしっかりとした描写力で読者を飽きさせず、むしろ異常なぐらいの生理的拒絶感を伴う怪奇譚に仕上げていると思う。
惜しむらくは、現実世界から異界へ入り込む瞬間が描かれていなかったこと。
どこかに入り口に通じるポイントがある訳だから、それがしっかりと添えられていたら、希少価値の面でさらに評価を上げていたと思う。