2007-04-01から1ヶ月間の記事一覧

【+1】あれは

描写に徹した書き方をすると、どうしても作中に登場する人物の様子が冷静で客観的な人間のように見えてしまう。 この作品は、その冷静さが特に目立ちすぎているように感じる。 一番の理由は、体験者=私の目線書かれた内容であるにもかかわらず、いわゆる“神…

【+3】挨拶

内容としては怪談というよりも奇談に近いものであるだろう。 実際に起こりうる出来事としてその地域に言い習わされている以上、怪異であると認識するのはおかしいと言える。 だが、奇談として読むと、これはなかなか面白い話である。 死者が血を噴き出す現象…

【+1】カーナビ

最近やたらと怪異以外の部分に力の入っている作品が並んでいたが、久々の“投げっぱなし”怪談である。 しかもきちんとオチまで付けていてくれる、親切な怪談話である。 何となく“小咄”という印象を持った。 怪異自体もカーナビの物真似をして生者を死へ導こう…

【+3】五里霧中

旅の途中で道に迷い、異界と呼ばれる世界にはまりこんでしまう話は結構ある。 この作品もその種類なのであるが、その世界での体験が際立って異常である。 特に、むやみに怒りの感情にとらわれたり、ドッペルゲンガーの如き人物を目撃したりするところは、狐…

【+4】水の中に

1つの作品に押し込めてしまうのが勿体ないほど、貴重な妖怪体験談である。 前半の初遭遇のエピソードは少々周辺のことを細かく書きすぎている印象もあるが、押さえるべき点を押さえているので体験談として問題なく成立している。 特に貴重なのは祖母の発言…

【+2】白黒

臨死体験の話であるが、かなり特異な後日談によって希少性を上げている。 後日談がなければ、変な格好であるが、この二人の男の正体は“死に神”と呼ばれるお使いの者と断じられるところであっただろう。 ところが、彼らが自動車のシートに座っているところを…

【−1】音無

不思議な話であるが、突如として日常の世界が異界とすり替わってしまったという話は類例が多い。 この話も犬という特別な存在があるが、よくあるパターンであると言ってもいいだろう。 こういう異界ネタの場合、やはり描写力が一番ものを言う。 この作品では…

【+1】婚礼

業界ネタというのは、体験者自身にとっては日常であるが、一般人にとっては初見・初耳ということが往々にしてある。 それ故、怪異と直接関係のないエピソードをどこまで挿入するかが、かなり思案のしどころになる。 当たり前のごとくサラリと書いてしまった…

【0】先に入ってます

怪異が小粒というよりも、怪異として成立するかの際どい内容である。 風呂の蓋が少し開いていたのが気がつくと閉められていたという物理現象(これも体験者の錯覚と言ってしまえば終わってしまいそうなほど些細なもの)がなければ、体験者の恐怖感も含めて全…

【+3】入り江

強烈なネタであり、そのネタを十分表現できるだけの筆力があるので、引きずり込まれるように読むことができた。 普通、「出る」と言われる場所へ肝試しで行ってもなかなか怪異に遭遇することもないし、ほとんどが空振りに終わってしまう。 それを思うと、こ…

【+1】歯無し

第一印象としては「怪異と関係のない情報が多すぎ」である。 怪異の肝だけを取り上げれば最後の一段落だけで十分であると思うし、それ以外の部分はほとんど怪異と直結しない内容であると感じた。 逆に前半部分はあまりにも思わせぶりな情報が多すぎて、却っ…

【+3】自粛

際どいシチュエーションであり、またなかなか笑わせてくれる内容でもある。 現れた霊体はまさに妖怪チックな“声の否哉”という感がする(あの妖怪は後ろ姿が女性で顔が老人という、容姿がギャップの奴であるが)。 体験した本人はさぞかし身の縮む思いであっ…

【+1】見学

売れないモデルルームには何かがあるという話なのであるが、どうも中途半端な印象である。 結局のところ、体験者が明瞭にあやかしと遭遇しているにもかかわらず、それについて詳細な描写や説明がなされていない点が煮え切らないという感じなのである。 まず…

【+2】生徒手帳

非常に不思議な怪異であるとしか言いようがない。 手帳を取り戻しに来たあやかしの正体が、生霊にせよ死霊にせよあまりにも肉感がある行動を取っているためである。 言うならば、体験者が手にしていた生徒手帳を奪い取ろうと揉み合い、しかもそれを取り戻す…

【+3】午前2時10分

ある意味で一つの確立されたスタイルである。 徹底して克明に書かれた描写によって怪異を丹念に追体験させるスタイルであり、ここまで精緻に金縛り体験を書いた作品は見たことがない。 特に奇抜なレトリックを使っている訳でもないし、奇を衒った表現を前面…

【+1】見てみんしゃい

体験者以外にも同じ体験をした人間がいるにもかかわらず、それらの情報を具体的に提示しない。 それよりも体験者自身の遭遇情報についても非常にぼかした形で書かれている。 作者が書き落としたというよりも、わざと書かないことによる効果を狙っていると感…

【0】だるまさんが転んだ

一番気になったのは、最後の文体の変化である。 子供時代の体験を客観的な文体で書いていたのが急に子供本人が大人に向けて必死で語りかけるような調子に変わった訳だが、どうも違和感が残る。 しかしこれを今までの書きぶりで表現しても、やはり違和感が出…

【−2】トスットスットスッ

猫絡みのネタでしかも装飾の技法までかぶってしまったら、比較するなと言われてもどうしようもない。 同一作者であるのかどうなのか判らないが、とにかく二番煎じと突っ込まれてもやむを得ないだろう。 また怪異自体も小粒であるし、危急の時にペットの霊が…

【+3】ワンボックスカーにて

適度な長さと読みやすさによって、かなり読み応えのある作品に仕上がっている。 怪異としてはそれほど強烈なものではないが、オーソドックスな怪異を臨場感溢れる筆さばきで書ききっているという印象である。 だがオーソドックスといえども一昔前のような古…

【+2】廃院を巡る不条理

人の住まない廃墟であるという理由だけで、あやかしはそこにたむろし始める。 特にその土地に関係しない霊であっても、人の住まなくなった場所のような“陰に籠もった”所に集まってくるものである。 この作品に登場する廃院もそのような場所の一つであり、不…

【+1】あみんぼ

期せずして“胎児の記憶”のまつわる話が連続して出てきた。 普通は早い者勝ちなのであるが、今回に限って言えば、後の方の作品の方がよくできていると思った。 この種の不思議譚の最大の弱点は、生まれる前の記憶が本人自身の体験によるものではなく、誰かか…

【+1】カマキリ

偶然の一致と思える怪事に出くわすと、人間はそれらを結びつける原因をどうしても探し出してしまう。 その心理は別に悪いとは言わないし、それが誰もが納得しうるだけの原因であれば、それはそれで人智を超えた存在のなせる業として怪異譚となる条件を持てる…

【+1】覗き、笑う

雰囲気を作る意図からであろうか、やたらと話を引っ張って、怪異の内容に不釣り合いなぐらいに長い話になってしまった。 怪異の肝としては体験者自身の顔が写った心霊写真が、いわゆるスポットと呼ばれる廃屋の中で写されたというだけの内容である。 個人的…

【−2】でも覚えてるんだ

“胎児の記憶”と称される、説明のつかない不思議譚である。 まだ生まれる前に起こった出来事にもかかわらず、それを体験したかのように記憶している現象である。 この作品で語られる記憶であるが、かなりあやしい。 なぜなら、胎児と同時に目撃している母親だ…

【+2】乳母車

畳みかけるような恐怖の連続で、読みやすい書きぶりと相まって、グイグイと引き込まれるようにして読んでいくことができた。 だが、体験者以外にもあやかしである女を目撃した複数の証言があるという最後のくだりで、一気に面白味が薄れてしまった。 この作…

【+2】はらさ!!

内容を整理すると非常に怖いと思うのだが、読んでいるうちはあまりそれを感じなかった。 やはり描写が勝ちすぎた文章というのが、体験者の緊迫感を殺してしまったと言うべきなのだろう。 特にこの作品は、あやかしと体験者との距離が接触しているほどの近さ…

【+3】にゃ〜おん。

文章全体についてはまだまだ自在に書いているという印象は少なく、やたら「た」で終わる文が多くて、テンポ良く読めるレベルではないと思う。 だが、怪異を表現する上では十分耐えられる文であると判断するし、実際、拙さ以上に怪異の方が印象に残った。 怪…

【+4】目

ドロドロというよりは、まとわりつくような不快なネットリ感を醸し出す作品だと思う。 一番効いたのは、生霊として現れる奥さんと、現実世界の奥さんとのギャップであろう。 現実の奥さんが健気であればあるほど、体験者の目の前に現れる生霊が持つ怨念の深…

【0】見えるかい?

怪異なくして怪談を成立させたというべき作品である。 一見ただの与太話の延長のようにも取れるが、読者に対して徐々に恐怖感を植えつけようとする構成はやはりかなり綿密に計算されたものを感じることができる。 この話の内容をおどろおどろしく書いたとし…

【+1】何?

文字を置く位置をずらすことで表現されているものが移動していることを示す表示の方法は、実話怪談の世界では珍しいと思うのだが、他のジャンルまで視野を広げると別に目新しい実験ではない。 また体験者の恐怖感を示す最後の3行についても、今までの実話怪…