【+1】何?

文字を置く位置をずらすことで表現されているものが移動していることを示す表示の方法は、実話怪談の世界では珍しいと思うのだが、他のジャンルまで視野を広げると別に目新しい実験ではない。
また体験者の恐怖感を示す最後の3行についても、今までの実話怪談ではあまり使われていない雰囲気を持った面白い趣向であると思った。
要するに、この作品は過去の実話怪談にとらわれない技法を用いて作られていると言っていいだろう。
またそれが小気味よく効果を上げていると評しても良いだろう。
しかしながら傑作であるとは言い難い。
料理で喩えるならば“まかない料理”と言うべきだろうか。
作者の個性も発揮できるし、また目の肥えた客の中に晒されてもそれなりに評価もされる。
だが完成された料理としては、素材が圧倒的に差がつきすぎている。
結局いくら良い味付けがなされようとも、ネタが小粒なのである。
作者の繰り出す技法が冴えている分だけ、ネタレベルの低さが露呈してしまっている。
講評者の視点の置き方によってかなり評価が変わる作品という印象であるが、個人的にはネタの弱さの方が気になってしまったということである。