2011-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『無縁墓』

一人称独白体の最も悪い部分が出てしまったというのが、結論である。 怪異の体験としては、無縁墓を探検して突発的な体調不良に襲われ、お地蔵さんに助けを求めて無事帰還できたという内容である。問題なのは、これらの体験が全て主観の産物であると指摘され…

『四区』

過不足なく怪異に関する情報が詰められており、またそれに関する伏線もしっかりしているので、よく出来た作品であるという印象である。 怪異の舞台となる場所も早い段階で提示され、さらにそこをバイクで走る危険性までしっかりと指摘、しかも不謹慎な言い方…

『黒い影』

一人称独白体についてはあまり推奨しないのであるが、この作品に登場する怪異の本質を鑑みると、どうしてもこの文章スタイルを取るのがベストであると言うしかない。自分だけにしか見えない存在、それを周囲に告げたために壮絶なイジメに遭う展開は、主観の…

『開けてください』

起こっている怪異そのものは非常に不思議、生霊のようにも見えるし、幽体離脱と解釈しても良い、さらには物の怪が化かしたとも、いわゆる神隠しの寸止め現象だったとも考えることができる。また春奈さんが和馬君を追いかけている状況が手に取るように分かる…

『一人遊び』

非常にウエットな内容を含む怪異譚であるが、体験者である史絵さんの心理的変化にかなりの飛躍があるために、初読の際、最も重要な場面で引っ掛かりが生じてしまった。一番疑問を感じたのは、何故子供の霊が母親である藤田さんではなく、史絵さんにしがみつ…

『土下座』

怪談は、どうしても“負の感情”が働くことによって成立する確率が高いわけで、その結果、人間の暗部が嫌でも目につくことも多くなる。この作品もそういうものをこれでもかと読み手に提示してくる。 ここに登場する植松氏と竹村氏は、どちらが絶対的に善であり…

『腕立てふせ』

体験者が怪異に気付く瞬間というのは、怪談を書く上での最大の見せ場であると言っても過言ではないと思う。これの出来次第で、軽微な怪異でも驚くほどの恐怖感を得ることが出来るし、逆に一気に読み手を白けさせてしまう破壊力も有している。とにかく“気付き…

『指の痕』

タイトルもストレートなら、ストーリーの展開もストレート。怪異の内容は、どちらかというと既視感があるレベルなのであるが、あまりにも直球ど真ん中な流れであるために、却って新鮮味を覚えたほどである。良く言えば、ややこしい表現技巧などお構いなしで…

『見えるもの』

これだけの分量で登場したエピソードは全部で5つ。下手をすると、わずか数行で“あったること”としての事実が書かれているだけという感じであり、目まぐるしいぐらい次々と話が展開されているのである。しかし言うまでもなく、このような軽い紹介程度の内容…

『ひとつ屋根の下』

怪異とされている内容が小さな物音であり、まずその点で信憑性についての疑念が生じてしまった。事細かに様々な可能性を書いては否定するという手法で、音が単なる思い過ごしではないと明らかにすることには成功している。しかしその音の出所については特に…

『居候』

完全な“投げっぱなし怪談”の形式を取っているが、内容的にはまった似て非なるものになっている。はっきり言えば、“投げっぱなし怪談”とするための要件を全く満たしていない内容を無理やりはめ込んだだけの作品であると断じたい。 “投げっぱなし怪談”として成…

『鬼』

怪異の本質を完全に見誤ったまま構成を展開したために、非常に歯切れの悪い内容になってしまっている。 この作品の怪異の中心は“鬼の目撃”に他ならないのであるが、タイトルと冒頭の部分で全てネタばらしをしてしまっている。ここまで見事に結末をばらしてし…

『パロパロ爺さん』

遭遇した怪異そのものはなかなか興味深いものがあるし、希少性も高い。しかしそれをどのように見せるかという点において、完全に“怪談”の情趣を逸脱してしまった。 元々このような“怪人”の目撃談が、いわゆる“現代妖怪”の範疇において“都市伝説”の一種という…

『彼女とドライブ』

いわゆる“人形怪談”の範疇に入る作品なのだが、その人形がダッチワイフというところがこの怪談のミソである。その点で言えば、このドタバタ劇のようなコミカルな書き方は適切であると思うし、それなりに評価できるものであると思う。しかしながら、怪異その…

『狼男の土曜日』

タイトルを見た瞬間、どんな怪異だと期待しながらも、大風呂敷の可能性もあるやもと思いつつ、結局後者の結末だったため、インパクトは大きくマイナスの方向に傾いてしまった。しかも怪異の内容そのものもさほど強烈なものであるとは思えず、どちらかという…

『泣く理由』

もし【超−1】が怪談一般の公募大会であったならば、この作品に対する評価は相当高いものになっていた。体験者個人の心に宿った恐怖に近い不安感を的確に表現しきっていると感じるところもあるし、とにかく心象風景の描写がピシッと決まっているところにリス…

『月夜ではなかったが』

非常によくまとまった作品。怪異としては、最初かなり際どい線を行きつ戻りつという感じだったが、最後に“大勢の盛大な拍手”によって明確に怪異であることを提示、そこまでのモヤモヤとした感触を一気に吹き飛ばしてくれた。怖さはないが意表を衝いた怪異で…

『目玉焼き』

“小さいおっさん”目撃談である。ネタのレベルから言えば、この作品のようにサラリと“投げっぱなし怪談”としてまとめてしまうのが無難であると言えよう。しかし、それ以上の期待も出来ないし、ある意味怪談としての評価レベルはたかが知れており、意表を衝く…

『落ちる』

結論から言ってしまうと、主人公である体験者の心理描写が饒舌すぎて、怪異譚としての雰囲気がかなり薄れてしまったように感じる。体験者が怪異に対してどのような感覚で相対したのかをしっかりと書くことは吝かではないが、ただそれが過剰になってしまうと…

『小さな主張』

作品の構成で言えば、まさに松村進吉氏の“フラグメント”形式を意識して書かれたのは間違いないところである。断片的な怪異体験を1つのエピソードに詰め合わせることで、何らかの符丁なり因果なりを浮き上がらせる、あるいはそれらの怪異の背後に潜むもっと…

ちょっと手直し

今までの講評した作品の評点の見直しを実行。理由は、このブログでの評点は+6〜−6までの13段階評価で行くと言いながら、一部の作品で+4〜−4までの9段階評価を強く意識したものがあると判断したため。またこの段階刻みのズレが、そのまま基準となる…

『僕らはそこを通らない』

圧倒的な筆力でグイグイと読ませる、しかも怪異は強烈で非常に禍々しいものであり、ガチ怖系怪談としてはなかなかの作品であると言える。特に怪異の内容が半端ではなく、どういう由来で怪異が起こっているのかは定かではないが、子供の命を奪い取ってしまう…

『真っ赤な自転車』

一幅の絵が描けてしまうのではないかと思うほど、非常に印象的な怪談である。まさに“情緒的”という言葉がしっくり来る内容である。怖さよりも不思議感、それも体験者がふとサドルに触れようとしたのが理解できるような、淡くてたおやかな印象に満ち溢れた光…

『チャリ』

今年最初の“投げっぱなし怪談”である。グッスリと眠っているところにこんな闖入者が現れたら茫然となるだろうし、寝起き直後の一瞬の出来事というシチュエーションを考えると、良くこれだけの情報を得ることが出来たなと思うところである。逆に言うと、夢と…

『テニアン島の思い出』

いわゆる“戦争怪談”のパターンの王道であり、戦地跡へ赴いて、そこで日本兵の無念を追体験するという話である。 よく似た話を多く聞くが、テニアン島での怪異譚は記憶にないので、その点では希少性があるものと言える(壊滅した日本軍の拠点は太平洋上の島々…

『沼地の家』

一読した第一印象は“現在進行形の怪談”。怪異はまだ始まったばかりで、これからさらに怪異は展開していくのだろうという雰囲気を非常に強く感じ取った。特にそれを意識したのは、最後にある体験者の憶測部分である。本来、怪異に対するこのような解釈を施す…

『素材倉庫』

この作品も、文体によって大きくマイナス評点とせざるを得ないものとなってしまった。「です・ます」調の文体は、文字化されると途端に稚拙なイメージがつきまとい、それだけで大きなハンディを背負うことになると思う。「一人語り」文体(喋っている言葉を…

『暴風』

一言でいえば、現象を怪異にまで引き上げることに失敗してしまった、ということになるだろう。 親子が揃って喉の違和感を覚えて体調が悪くなる事実、そして窓一面に枯れ葉などが張り付くほどの暴風、この2つの現象の因果関係が明確にならなければ、常識的に…

『グレー』

怪異の内容としては非常に希少なものである。あやかしに導かれて、気が付くと死地に誘い込まれていたという話は、相当数の類話がある。このような繁華街の雑踏が舞台であるケースも複数読んだことがある。それ故に夫婦のみの体験談であれば、さほど興味を惹…

『席の無い子』

冒頭部分の主人公のエピソードから怪異にまつわる伏線が綺麗に張られており、ストーリー全体が非常に有機的に出来ている印象である。最後の卒業式のエピソードで、主人公以外にも見えている人がいることが判るのであるが、その見える生徒たちが学校内でどう…