『狼男の土曜日』

タイトルを見た瞬間、どんな怪異だと期待しながらも、大風呂敷の可能性もあるやもと思いつつ、結局後者の結末だったため、インパクトは大きくマイナスの方向に傾いてしまった。しかも怪異の内容そのものもさほど強烈なものであるとは思えず、どちらかというと子供時代のちょっとした怪体験という印象しか残らなかった。
この作品の最大の問題点は、体験者が目撃した妖しい人物を“狼男”と決め付けて、それで最後まで押し通してしまったことにある。子供の印象からニックネームを付けたというレベルの内容を、これ見よがしに怪異の本質のように書き立てており、まずこの段階でジュブナイル的な手法を感じ取ってしまい、一気に萎えてしまった。はっきり言ってしまえば、この怪しい人物にとびきりおどろおどろしい名前をあてがって、恐怖感を与えようとする意図が見え透いてしまい、実話怪談を読み慣れている読み手からすればまさにこけおどしにしか見えなかった。百歩譲って、子供時代の思い出語りの演出とみなしても、やはり変な先入観を植えつけるだけのものという印象は否めないだろう。
この変な先入観のために、肝心の怪異の異様ぶりが消し飛んでしまっている。目の前で怪しい爺さんが消え失せる怪異、そしてその目撃の記憶が完全に抜け落ちている友人達の不思議。本来であれば、この部分が怪異の中核をなしているはずなのであるが、どうしても“怪しい爺さん=狼男”のインパクトの方が勝ってしまっており、非常に貧弱な怪異という受け止め方しかできなかった。結局のところ、小説的なインパクトで読み手を掴んでも、それを維持できるような怪異譚にまでなっていないし、むしろ怪異に対する認識において大きな誤解を生む内容で煽っただけというところであろうか。タイトル以下の期待感が強かった分だけ失望も大きかったというのが、個人的感想であり、怪異の本質を完全に見誤っているという意見である。よって厳しくマイナス評価とさせていただいた。
【−5】