『彼女とドライブ』

いわゆる“人形怪談”の範疇に入る作品なのだが、その人形がダッチワイフというところがこの怪談のミソである。その点で言えば、このドタバタ劇のようなコミカルな書き方は適切であると思うし、それなりに評価できるものであると思う。しかしながら、怪異そのもののレベルを考えると、少々はしゃぎすぎかなという印象が強い。
この作品での具体的な怪異は、ダッチワイフが人肌の温かみを持ち、喘ぎ声と思しき声を発する、そして車での移動中に異界にはまり込んだかのように延々と道路を走り続けたり、時間が止まったかのようにラジオから同じようなフレーズが聞こえるといった内容である。言うならば、よくある怪異のパターンの連続であり、ダッチワイフの怪異に至っては、体験者の思い違いとか勘違いの可能性を捨てきれないほど小粒な内容であると言ってよいだろう。つまり、非常に面白いシチュエーションであるのだが、怪異そのものは非常にオーソドックスであり、むしろ検証すればするほど本当に怪異であったかどうか疑わしいと突っ込まれても致し方ない内容なのである。そのために、道中の怪異体験が長々と書かれているのだが、怪異だけをピックアップしていくと、実にだらけた印象すら持つレベルと言っていい。結局、読ませる内容が、ダッチワイフを同乗させたおかげで体験者がおかしな行動に走る部分にしかないのである。これでは笑いは取れるが、怪異体験としての興味という点で非常に弱さを感じざるを得ない。
道中の部分をもっとスピーディーで簡潔な書き方にして、テンポ良く展開させていくことができていれば、怪異の弱さをあまり感じることなくストーリーに入り込むことが出来たのではないだろうか。話を引っぱりすぎて怪異の弱さが目立つようでは、怪談としての価値を自ら摘み取ることになる。面白可笑しい内容にすべきだろうとは思うが、本来の目的である“怪異の表現”が疎かになっては、本末転倒と批判を受けても仕方がないところである。ただしダッチワイフの怪談というのは“人形怪談”の中でも希少なので、それなりの評価はしたい。
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