『寂しさの行方』

いわゆる“見える”人に焦点を当てて、その心情を吐露させる展開である。怪談を愛好するが自身は霊感を持たない人間にとっては、ある意味興味津々、ただし決して理解しようがない世界でもあるわけで、非常に重い気分にさせる内容である。この作品は、そのよう…

『青い顔の男』

相当長い作品であるが、思いの外すんなりと読めた。文章が読みやすく、またストーリーそのものは長いが各エピソードがきちんと分けられているために、大きなストレスを感じなかったせいであるだろう。結構硬派なタイプの文であるが、重さを感じさせることは…

『ひゅ。』

高齢者が子供時代に体験した、ノスタルジックな怪異譚である。戦前から高度成長時代が始まる前ぐらいまでの時期にあった体験談ということで、ある種“古き良き日本”を彷彿とさせる内容が多いのが特徴である。以前「戦争怪談は希少。特に戦場の怪談は、体験者…

『レイアウト』

いわゆる“業界怪談”の典型的な話である。しかもグラフィックデザイナー関連の怪談話ではほぼ都市伝説化しているような鉄板の話である。ストーリーを読むか読まないかのうちに、おおよその展開を想像することも出来たし、実際その範囲で全てが展開してしまっ…

『GAME』

臨死体験を扱った怪異譚であるが、完全に書き方を誤ってしまっていると言えるだろう。実話としての信憑性というものを、書き方によって全て失っているという意見である。 臨死体験(あるいは幽体離脱)を語る場合、一番大きな問題は“信憑性”をいかにして獲得…

『去りゆく』

徐々に霊体が体験者から離れていくという怪異が珍しい。おそらく別れを告げに来ているだろうと推測できる行動なのであるが、実際に長期間にわたって少しずつ立ち位置を離していくことでフェイドアウトするというケースはあまり記憶にない。その対象となる人…

『肝斑-しみ-』

怪異の原因が明確であり、その現象自体も誰もが認知できるものである。この種の現象として因果関係がはっきりしており、なかなか興味深い超常現象であると言えるだろう。ところが、これだけ明快な因果にもかかわらず、書き方のためにまどろっこしい展開にな…

『毎度!』

小気味よいテンポでさくさくと読ませる作品である。一文一文が短く、そして的確に描写されているために、情景が把握しやすい。そのために読み手が場面を容易に想像でき、しかもそれが連続して展開していて飽きさせない。言うならば、一文が漫画の一コマのよ…

『紙ヒコーキ』

同じ行為が繰り返されつつ、それがどんどんエスカレートしていくことで怪異のクライマックスを迎えるという展開である。落ちている紙飛行機を次々拾い上げ、ようやくその真意に気づくあたりから一気に読むことが出来た。怪異の展開もその結末も、陳腐と言え…

『嬲視線』

怪異としてはなかなか興味をそそる内容である。見えない何者かと浮気をする妻、そしてその見えない存在とのツーショットと考えられる写真の存在、さらにその見えない存在を紹介されて視線に怯える娘。ある意味物証と呼べるものは揃っており、単なる思い過ご…

『その声』

不可解な状況で人が失踪してしまう怪異譚であるが、作品全体の雰囲気が絶妙である。特に体験者と彼氏との電話のやりとりは、ちょっとしたチグハグ感から一気に事態が錯綜したただならぬ展開へと変化し、体験者自身の困惑した感情をしっかりと作り出している…

『雪上登校』

雪国ならではの習慣から起こる怪異譚であり、体験者の子供時代の思い出話という形を取っている。しかも会話も全て方言であり、ローカルさを全面に出してくることによって、古き良き怪談の雰囲気を醸し出していると言えるだろう。読んでいてホッとする印象を…

『見ないでよ!』

「怪談落語」のエロバージョンと言うべき、なかなか面白い作品。おそらく酒の席に語ったら大うけするような、小粒ながら非常によくまとまった怪異譚であると思う。 この作品の一番の肝は、女性のあやかしが言い放った「見ないでよ!」という言葉を、体験者が…

『赤いランドセル』

創作の手法に近い書き方をしているのであるが、それが却って裏目に出てしまった感がある。怪異の肝となる内容を時系列の流れの中に組み込まず、敢えて体験者の記憶のフラッシュバックとして話の末尾に置くという手法であるが、巧くはまってしまうと相当な余…

『バス通勤』

読み手の受け取り方次第で、評価がかなり割れそうな印象のある作品である。結論から言ってしまうと、怪異のレベルと体験者の心理描写に何となくギャップがあり、その差を書き手の丁寧さと取るか、あるいは大仰な表記と取るかによって、印象ががらりと変わる…

『よしえちゃん』

小さな子供が見えない誰かと話をすることから始まる怪異譚は、かなり多い。その相手は、身内の霊であったり、たまたま取り憑いた霊であったりすることが多いが、生霊しかも子供の生霊というのは結構珍しいパターンではないかと思う。それ故かもしれないが、…

『死化粧』

かなりの意欲作である。“あったること”を正確に達意の文章で記録するという王道のスタイルではなく、限りなく小説的な書き方で怪異の本質に迫ろうとしている。結論から言えば、おおよそその目的を達成しているのではないかという意見である。 一番の特徴は、…

『雨の日に』

話者自身の怪異体験から、祖母の切ない体験を誘導する形で展開するのであるが、はっきり言ってしまうと、怪異の内容と比べてとにかく話が長すぎる印象である。余計なことがダラダラと書かれているわけでもなく、書き手がジェントル・ゴースト・ストーリーに…

『思惑』

タイトルと冒頭の体験者のプロフィールを数行読んだだけで、おおよその顛末は読めてしまった。ただし、最後のエピソードが予想を上回る内容であったのが、良い意味での裏切りであったという印象だけが残った。 この作品の場合、怪異の内容が他人の内面の透視…

『「2ちゃんねる怪談」の怪』

怪異としては、一瞬のつもりが半日ほど時間が飛んだという感覚に襲われた、プリントアウトされていたはずの怪談話がそこだけ空白になってしまったという内容である。特に特筆すべきは、空白部分が出来てしまったという怪異であり、これは物理的な変化が明白…

『寿司電車』

仮にこの作品が創作であったならば、これら一連の現象が怪異であると認めることになるだろう。しかし実話である限りにおいては、これらの現象が全て実際に起こった内容であるとしても果たして怪異と言えるかどうかには大きな疑問符が付く。結論から言えば、…

『特化型賃貸物件』

文章そのものは、それなりに書き慣れているというか、生真面目にきちんと書くことが出来るという印象である。しかしその全体の構成を見ると、2つの意味であまりにも冗長すぎる。この冗長さのために、完全に怪異がくたびれてしまっていると言えるだろう。 最…

『先住』

厳しい言い方になるが、ネタが小粒で新鮮味に欠けるものであると、いくら新奇な味付けをしたところで怪談話としては全く面白味が出ることはない作品の典型例である。 賃貸物件で異様な気配を感じてそこで霊を目撃するという、いたってシンプルな内容である。…

『祖母』

いわゆる“怪談フォーマット”を活用してストーリーを展開しているのであるが、非常に違和感を覚える。フォーマットに従っているのだが、怪異に関する記述が全て祖母の独白によって構成されている点が違和感の正体であると思う。地の文で書かれているが、結局…

『路上教習』

車を運転している最中の怪異は多いが、路上教習となるとあまり類例を思い出さない。そして超常的な存在による悪戯めいた怪異もよく聞くが、古い墓とか錫杖と関係付けられた類例は記憶も定かではない。ある意味、かなり珍しい怪異ではないかと思うところがあ…

『風邪』

おそらく「語り」でサラッとやってしまえばそれなりに納得させることができるが、文字として残されて読み返すことが出来る状態では、どうしても弱さを感じてしまう作品である。 「語り」で練られる文章と、「読み物」として練られる文章とでは、やはり質が違…

『帰ってきたよ』

この作品の場合、実話怪談として最も根幹に当たる部分で問題が生じてしまっており、それ故に評価するに値しないという意見である。 この作品の怪異の肝と呼ぶべき部分は、無惨な姿で帰宅した娘さんの状況なのであるが、結局彼女が生身の存在であるのか、それ…

『逢魔』

おそらく減点方式で評価すれば高得点、加点方式で評価すればそこそこの得点で止まってしまうだろうという作品。要するに瑕疵は少ないが、それがない分だけ、引っ掛かりも少ないということである。 冒頭の体験者のコメントから、怪異の本題に入るまでの簡単な…

『私は人魂を見た』

非常に厳しい言い方になるが、果たしてこの書き手は本当の意味での“ホラージャンカー(怪談ジャンキーの意か)”と言えるのかという部分で引っ掛かりを覚えてしまった。 子供時代の体験であるが、説明の詳細さを考えれば、単なる目の錯覚や勘違いではない体験…

『彼岸より』

タイトルと、本題に入る前のエピソードで、どういう内容の怪異譚であるかは殆ど察しがついてしまった。いわゆる“死後の交信”と呼ばれるジャンルの典型的なパターンであり、内容としては古典的であるというべきものである。ジェントル・ゴースト・ストーリー…