『思惑』

タイトルと冒頭の体験者のプロフィールを数行読んだだけで、おおよその顛末は読めてしまった。ただし、最後のエピソードが予想を上回る内容であったのが、良い意味での裏切りであったという印象だけが残った。
この作品の場合、怪異の内容が他人の内面の透視である以上、体験者が“見える”人であることを隠すことは出来ないし、わざとらしく最後まで明確な言葉で書かないのもどうかという意見である。かといって冒頭から「霊感がある」という表記をするかについても賛否が分かれるところである。このあたりは読み手次第の部分であると思うが、個人的には、少なくとも冒頭から明かしてしまうのは若干勿体ない気がする。具体的な能力を描写した後で、さりげなく途中で「霊感がある」という表記を差し挟んだ方が、自然な感じで受け入れることが出来るのではないだろうか。
ストーリーの展開は非常に真っ当というか、面白味がないぐらいステレオタイプの流れであったと思う。この種の能力の持ち主ならではの体験談としては、軽めの能力の披露から始まって、とりわけ奇妙な体験を書いて締めるという構成は王道である。しかも内容的にも深刻さが薄く、多少あっけらかんとした笑いに近いものを盛って読みやすくしているのも、常套手段であると言える。とにかく流れについては、類話を踏襲した形式であると断言してよい。ある意味安定感はあるが、月並みのレベルである。
ただ最初にも書いたように、最後に書かれた怪異の内容が少しばかり珍しいものであり、その部分で評価は少し上がった。おそらく男性の思念がつきまとい、残像として見えたのであろうと推測するが、それがケータイでお断りメールを送った途端にきれいに消えてしまうのは、諦めがいいというか、何とも言えないおかしみになっている。あまりにも現金なリアクションであるが故に、あまり類がないという印象である。(ただし極めて極端な解釈であるが、断りメールを入れてからのあまりの反応の良さに、もしかするとこれらの軟派な男性陣の思念と思しきものの正体が、実は、体験者自身が生みだした邪推の産物ではないかという考えが一瞬よぎった。経験則だけでは測れない解釈が出来るということは、それだけこの怪異がレアであるということである。敢えて書かせていただいた)
文章全体としては、まだ贅肉を落とせる部分もかなりあるように感じたが、冗長であるとか破綻しているとかいう次元ではなかった。評価としては、レアな怪異が含まれている点(ただし心霊学的にディテールの点で興味深いというだけであって、現象そのものはかなりありきたりである言わざるを得ない)を除けば、可もなく不可もなく、悪い意味で平均点の作品ということになるだろう。
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