『見ないでよ!』

「怪談落語」のエロバージョンと言うべき、なかなか面白い作品。おそらく酒の席に語ったら大うけするような、小粒ながら非常によくまとまった怪異譚であると思う。
この作品の一番の肝は、女性のあやかしが言い放った「見ないでよ!」という言葉を、体験者が実は誤解していたというオチにあると言えるだろう。全裸の女性のあやかしが自分の方を見て「見ないでよ!」とか言ったならば、意味を受け取り間違えてもやむを得ないと同情するし、まさか「皆いでよ!」ということで大量の全裸の男性のあやかしと一緒に狭い部屋にすし詰めにされるとは、予測不能な展開としか言いようがない。まさに天国から地獄のシチュエーションギャップが生み出す笑いは、突拍子のない分だけナンセンスでマンガチックである。その軽いタッチに合わせるように、文体も少々大雑把な感じではあるものの、飄々とした書き方になっており、全体の雰囲気を作っているという印象である。
ただし、体験者の“誤解”を際立たせるためには、あやかしのセリフは「ミナイデヨ」というようにカタカナ表記であった方が、より読み手には解りやすかったのではないかと思う。「見ないでよ」と誤解する場面では、体験者の行動を読めば、読み手も「見るな」という意味で捉えることが出来るだろうし、本来の「皆いでよ」で使われている場面では、後に続くセリフの内容があれば確実に読み取り可能であると言える。さすがに「ミナイデヨ」=「見ないでよ」=「皆いでよ」に気付く読み手はよほど敏感だと思うので、カタカナ表記の方が書き手の意図を明確に出来ただろうという意見である。
いわゆる書き手側の笑いの仕掛けの面ばかりが全面に出てくるが、怪異そのものも結構ハードな内容であり、怪異譚としてもしっかりしていると言える。100枚ぐらいの御札を貼り付けて封印しているという点、しかも封印が解けるといきなり怪異が発生する点、そして御札の数だけと思うぐらいの大量のあやかしが出現する点。“全裸”という条件によって何となく下世話な方向へ印象が流れている感が強いが、怪異そのものはもしかすると相当強烈ではないかと、ふと冷静になってみて初めてゾクリとくる部分があるのも、この作品の気の利いたところである。実際に御札を貼り直したらどうなったのかも知りたいとは思うが、体験者が押っ取り刀で御札を買い求めに走るところで話を止めるのも書き手の意図の反映と考えると、納得のいく手法であると言えるだろう。
全体的に書き手が何を意図して書こうとしているかがよく分かる作品であり、ある意味、その意図が怪異の本質を射抜いていると言える。巧くまとめてきた作品という意見である。カタカナ表記については、個人的に不満の残る部分ということで、若干厳しめにさせていただいた。
【+2】