『雪上登校』

雪国ならではの習慣から起こる怪異譚であり、体験者の子供時代の思い出話という形を取っている。しかも会話も全て方言であり、ローカルさを全面に出してくることによって、古き良き怪談の雰囲気を醸し出していると言えるだろう。読んでいてホッとする印象を与える作品である。
作品の構成についても、オーソドックスな正統派。シチュエーションの説明から時系列的に怪異を展開させて、最後にしっかりと怪異であったことを説明するというスタイルを取っている。こちらも抜群の安定感があり、文章そのものも特に過激さや先鋭さを抑えた、正調の描写や説明で手堅くまとめている。とにかく奇を衒うことなく、しっかりと物語を読ませることに書き手が専念していることが分かる。
特に巧みだと思うのは、会話の部分である。東北訛りを上手に文字化してスムーズに読ませることに成功している点もさることながら、会話の連続によってどんどんとストーリーに引きずり込むことに成功している点は評価すべきである。会話の応酬による臨場感が、この怪異体験の記憶を強烈なものにしているのは間違いないところである。とりわけ後半部分の、上級生とのやりとりによってあやかしの正体が白日の下に晒されるあたりは圧巻と言ってもおかしくない、緊迫感に溢れたものであると思う。
怪異については、スロープを滑り上っていくという物理的にあり得ない現象が起こっており、最後にあり得ない容姿の子供の存在を提示するという、二段構えで固めている。どちらかだけの怪異で話をまとめていたら、おそらく信憑性に乏しい内容となってしまって胡散臭さが目立ってしまう結果となっていたであろう。スロープの件は体験者自身の目の錯覚、あやかしの目撃は上級生の口からでまかせ、という批判で斬り捨ててもおかしくないわけである。しかし、連動するようにして起こった怪異について、全く別の二人の人間が異なる視点から体験することによって信憑性を積み上げている。それぞれの怪異の状況説明が微妙な印象であっても、こうやって二段構えの証言で読み手を納得させることに成功しているという意見である。
全体を通して作品に安定感があり、なかなか読ませる作品という印象であった。特に瑕疵も見当たらず、怪異についてもそれなりの信憑性があると思わせるレベルであった。高評価である。
【+3】