『路上教習』

車を運転している最中の怪異は多いが、路上教習となるとあまり類例を思い出さない。そして超常的な存在による悪戯めいた怪異もよく聞くが、古い墓とか錫杖と関係付けられた類例は記憶も定かではない。ある意味、かなり珍しい怪異ではないかと思うところがある。
しかし、起こったシチュエーション、そして現象としての怪異そのものは、さほど珍しいものではなく、むしろ「よくある話」に入ると言える。しかも怪異の内容が、怪談話として小粒の部類であり、あまりパッとしない。特にこのような1作ごとに評価をするコンペティションの場では最も不利な立場に置かれるレベルの作品ということになるだろう。いわゆる「複数の怪談が収められた作品集の中にあって、ちょっとした息抜きのように置かれることで存在感を示す」作品ということになる。
作品自体は完成度が高いと言える。小粒な怪異を軽いタッチで書くことによって、テンポよく読ませるように作られているし、途中に挟まってくる教官のリアクションが全体の構成にリズムを付けていて、気が利いていると言える。強烈な怪異ではない、むしろ不思議な出来事を少しユーモアタッチで軽やかに書くことで雰囲気を出しているのは、怪異の本質をしっかりと捉えている故であるだろう。非常に好感の持てる書きぶりである。
怪異を精査するほど、この作品は面白い怪異であると思うところが大きい。ちょっと車にぶつけられそうになった仕返しに、少々度のきつい悪戯(それも“車がぶつかってきそうになる”という同じ性質の報復内容)を引き起こすような真似をする。錫杖の音をさせていて、しかもちゃんとした墓があるので、狐狸の類ではないと推測できる。いったいこの墓の主は誰なのかを知りたくなるわけである。小粒ではあるが、色々と考えると、なかなかの怪異であるかもしれない。
ただ残念なことに、怪異の希少性と比べると、いかなる工夫をしようとも怪異の小粒感を払拭させることは不可能であるのも事実である。そのような不利な状況の中で、書き手は最上の選択をして作品を編んだとも言えるだろう。どうしても総合的な評価の点数は低めになるが、完成度の点で言えば、おそらく上位に置くべき作品であるという意見である。
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