『風船』

作品のタイトルは、何と言っても作品にとっては看板であり、読み手とのファーストコンタクトの場である。場合によっては、タイトルを見た時点で作品に対するイメージが形成されることもあるし、それが最後まで作品全体を支配することもあり得る。 特に怪談は…

『八割(はちわり)』

オチの“残念”ぶりがなかなかいい感じの怪異譚である。最初の母親の心配で不安げな雰囲気から徐々に状況が判明して、最終的に何ら危機がないと分かった直後に思い出したように明かされる“涎掛け”のインパクトは、当の本人でなくとも苦笑せざるを得ないところ…

『呪詛』

とにかく筆力はあるという印象。展開が非常に滑らかに感じるし、徐々に核心に移っていく流れはしっくりくるものがある。かなり書き慣れた書き手であると推測する。 しかし違和感を覚えるのは、タイトルにまで使われている「呪詛」という言葉を出してきた根拠…

『提灯』

小粒な怪異であるが、それなりに不思議な内容であるし、敢えて怪異に突撃してより一層深い追究をしなければ怪談として書くべきではないということもないわけで、これはこれで十分な怪異である。しかし表記や構成の面でしっくりとこない部分がいくつかあり、…

『母の日に』

怪異の内容としては、どこかで見たことがあるというレベル、また小粒という印象である。ただ適度な長さでスラッと読めるようにまとめられているので、怪談話としてはそこそこという評価である。登場人物の感情の流れを全く無視して“あったること”だけに圧縮…

『おせっかい』

怪談、特に“実話怪談”という作品を定義する場合、ある意味絶対的条件として考えてもよいのが「ありうべからざる怪異の存在」即ち「超常現象と客観的に呼べる内容」が含まれていることである。創作怪談では、最も広義の位置に“漠然とした不安”を基盤とした作…

『鋏』

内容と展開において既視感を覚えるほどの、典型的なパターンの怪異である。また、その怪異を見事なまでにステレオタイプの構成で書いている。文体もそつなくきちんとした印象であり、良くも悪くも普通というのが結論である。むしろ、その余りにもはまりすぎ…

『「五」から始まる』

怪異の希少性と連鎖の強烈さ、さらには因果関係の明瞭さを考え合わせると、相当なレベルの内容であると判断したい。どのような因果によって「五」という数字が選ばれたのかは判らないが、ただその数を忠実に守って展開される子供達の死の連鎖は、かなり大ネ…

『牛鶏鼠』

冒頭と末尾の部分を読むと、おそらく書き手は『学校の怪談』よろしく畜産高校で起きた怪異を列挙して、一つのまとまった怪異譚を組み上げようとしたと考える。しかし、表記の部分で舌足らずと思われる部分が多いため、非常に中途半端な内容になってしまって…

『足だけ』

怪異としては非常に小粒であり、友人の死と重ね合わせることで辛うじて他者に読ませるだけの内容になっているという印象である。仮に足の出現だけであれば、いくら微に入り細に入る表現であったとしても、一般に公開するレベルではなかったと思う。 かなり細…

今年はやる

ということで、昨年は結局不参加に終わった【超−1】であるが、1年間のお休み期間が効を奏したのか知らないが、今年はかなり入れ込んでいる。 久しぶりの講評なので、切れ味は落ちているかもしれないが、とにかく頑張ってみることにしたい。ひとまずご連絡…

『日本列島のヤバい話』

その土地の人が口を閉ざす日本列島のヤバイ話作者: 歴史ミステリー研究会出版社/メーカー: 彩図社発売日: 2012/09/25メディア: ペーパーバック クリック: 5回この商品を含むブログ (1件) を見る曰く付きの伝承地(心霊スポットも含む)についての情報を紹介…

『厭怪』&『无明行路』

怪談というジャンルは、負の感情であったり死であったりを多く扱うジャンルであり、その点で言えば、どうしても“業”というものを強烈に背負う部分がある。【超−1】出身の怪談作家の中でこの“業”を最も色濃く反映させた作品を出してくるのが、今回取り上げた…

『私は幽霊を見た 現代怪談実話傑作選』

私は幽霊を見た 現代怪談実話傑作選 (文庫ダ・ヴィンチ)作者: 平山蘆江,火野葦平,水木しげる,山田野理夫,阿川弘之,新倉イワオ,石原慎太郎,稲川淳二,佐藤春夫,長田幹彦,富沢有為男,徳川夢声,池田彌三郎,平野威馬雄,三浦朱門,遠藤周作,柴田錬三郎,東雅夫出版社…

『世界の心霊写真』

世界の心霊写真 ~カメラがとらえた幽霊たち、その歴史と真偽作者: メルヴィン・ウィリン,木原浩勝,小林真里出版社/メーカー: 洋泉社発売日: 2012/08/09メディア: 単行本(ソフトカバー) クリック: 19回この商品を含むブログ (3件) を見る時折思うことだが、…

しばらく旅に出ます

行き先は日本伝承大鑑 | 日本各地の伝承地を紹介。

 『怪処 創刊二号』

http://mg-kaisyo.jugem.jp/ ←『怪処』特設ブログ去年の夏に創刊、そして昨年末に二号と発刊された「オカルトスポット探訪マガジン」と銘打たれた雑誌である。とはいうものの、どこかの出版社から出されたものではなく、あくまで“同人誌”の括りである。一般…

『恐怖箱 怪生』

恐怖箱 怪生 (恐怖文庫)作者: 加藤一出版社/メーカー: 竹書房発売日: 2011/11/29メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 4回この商品を含むブログ (1件) を見る書評を始める前に、まず、まえがきにあった問い掛けに対する見解を書いておく。かなり長い文になるが…

来年の予測

まず去年の結果から。 ◆怪談系は地殻変動の年に→ 本当に地殻変動が起きてしまった ◆「語り」は強力なアイテムになる→ 強力すぎるが故の弊害も ◆2012年問題はオカルトではなくなった→ ある意味吹き飛んでしまった ◆妖怪は煮詰まる→ 煮詰まるが非常に堅調…

買った本2011.8〜11

最近読書量そのものが落ちてきているし、怪談本に至っては正直ほとんどページを開いたためしがないような状況。しかし読みもしないのに、蔵書蒐集というレベルでは相変わらずの活動をしている。かなり自己撞着の様相であるが、いずれまた憑き物が落ち、本の…

『無惨百物語 ゆるさない』

怪談実話 無惨百物語 ゆるさない (MF文庫ダ・ヴィンチ)作者: 黒木あるじ出版社/メーカー: メディアファクトリー発売日: 2011/08/24メディア: 文庫 クリック: 8回この商品を含むブログ (8件) を見るやや控え目に褒めると“数年に一度出るかどうかの傑作”と言っ…

竹書房文庫いろいろ(短評)

本日取り上げるのは「恐怖箱」シリーズの2冊。わざと2冊を括って評を書こうと思う。というのも、この2冊は一対の怪談本として編まれたのではないかという思いが強いためである。そんな推測が頭をもたげたのは『油照』というタイトルのせいである。この「…

竹書房文庫いろいろ(短評)

『怪談社 丙の章』怪談社 丙の章 (竹書房恐怖文庫)作者: 伊計翼出版社/メーカー: 竹書房発売日: 2011/05/28メディア: 文庫 クリック: 6回この商品を含むブログ (2件) を見る怪談社の書籍ももう3冊目になる。3冊も刊行できれば、物書きとしてもそれなりに評…

買った本2011.6〜7

何となくお茶を濁す感だが……。『てのひら怪談 辛卯』 『妖怪学の基礎知識』 『TABOO-JAPAN』 『ナックルズ・ザ・タブーVOL.5』 『怪談実話系 6』 『北野誠の おまえら行くな。冥府巡り編』 『恐怖箱 蝦蟇』 『現代百物語 忌ム話』 『なぜ怪談は百年ごとに流…

著者別短評の5

No.21 3月下旬に7作を一気に投稿。この書き手の一番の問題点は、怪異を客観的なものとして読み手に納得させるだけの内容が足りないということである。単なる情報不足であればまだしも、客観的に“あったること”と認める材料がない代わりに、どう考えて…

著者別短評の4

No.15 2月のみに4作品投稿。全作品を通して見ると、実話を書く上での基本的な部分で問題点があるのが分かる。この怪異が現実に起きたものであることを裏付ける必須条件である“リアリティー”の部分で非常に弱さを感じるのである。具体的に言えば、怪異…

著者別短評の3

No.10 大会期間を通じて21作を投稿。怪異の描写と登場人物の描写とは上手くミックスされ、しっかりとした目撃体験談を構成できているという印象である。特に登場人物の心理描写についてはかなり書き慣れている感があり、これが怪異の内容を際立たせて…

著者別短評の2

No.5 終了間際に11作品を投稿。作品の書き方に変化を付けており、また個人体験からきっちりとした取材まで手広くこなしている。それなりに創意工夫がなされていると感じるところである。しかし実話怪談の目線から見ると、ほとんど作品に共通する問題が…

著者別短評の1

今年はやります、短評。ルールとしては3作以上投稿された方を対象に(これは第1回【超−1】の際に、応募規定として3作以上投稿者のみエントリー有効とされていた名残である。初回のことを知らない人も増えているので、念のための追記)。一応エントリーNo…

『みちのく異界遺産 やまがた篇』

http://homepage2.nifty.com/araemishi/shop.html (←荒蝦夷の本 購入ページ) 普段は書斎に籠もって本ばかり読んでいるが、時々思い出したように旅に出る。行き先は各地に点在する伝承地、言うならば、理論に対する実践である。そういう旅をする者にとって…