来年の予測

まず去年の結果から。
◆怪談系は地殻変動の年に→ 本当に地殻変動が起きてしまった
◆「語り」は強力なアイテムになる→ 強力すぎるが故の弊害も
◆2012年問題はオカルトではなくなった→ ある意味吹き飛んでしまった
◆妖怪は煮詰まる→ 煮詰まるが非常に堅調・安定
◆UMAも都市伝説も決め手に欠ける→ 都市伝説は「陰謀論」暴発
◆パワースポットブームは継続→ 日常に定着


今年は全て「東日本大震災」で塗りつぶされてしまった感がある。これ抜きにして今年の潮流は語れないし、来年もまたこの路線を継承しながら進むだろう。極論すれば、世の中の価値観とか世界観をことごとくひっくり返してしまったわけである。どう抵抗しようが、この呪縛から逃れられる者はいないと思う。
ということで、来年の予測。


◆怪談系は地歩を固める
大震災を契機にして怪談は「鎮魂」という側面がクローズアップされ、新たな活力を得たように感じる。おそらくこのベクトルは来年も続くと思うし、中心に据えられるだろう。いわゆる【ジェントル・ゴースト・ストーリー】の隆盛である。心温まる話、感涙の作品が大いにもてはやされる傾向は避けられそうにもない。
しかし危惧するのは、この系統一辺倒に怪談が指向された時に、本来の「戦慄と恐怖」の世界が顧みられなく点である。怪談の擁する「鎮魂」は悲哀や思慕に限られたものではない。むしろ王道と言うべきは“赦すまじ”と襲いかかる怨恨=祟りであることを忘れてはならない。このあたりのバランスを踏み外さなければ、おそらく怪談は正しくしっかりと根付いていくことになるだろう。喜怒哀楽全ての感情を体現出来てこそ、怪談の妙味は生かされると考えるべきであり、一つの感情にだけ偏らないよう注意を払わねばならない。むしろ殺伐で無慈悲な怪異の登場を望みたい。ある意味、怪談の懐の深さが試される年でもあると思う。


◆2012年問題は竜頭蛇尾か?
マヤ暦の話は結構巷間に広まっているように思うのだが、流布すればするほど恐怖の要素がすごい勢いで削られていっている。もはやオカルトの領域のネタではなく、歴史学民俗学のレベルで語られる内容になっていると言えるかもしれない。
たまにアセンションという言葉と抱き合わせで煽る記事(主に週刊誌など)が散見されるが、非常に単発的。はっきり言うと、ちょっとした話のネタに近いものがあり、ほとんど話題にもならなくなってしまった。象徴的なのが、東日本大震災を2012年問題とリンクさせようという意図の本が五月雨式に出てくるかと身構えていたのだが、結局散発で終わり、常識的な対応に終始している。「2012年に地球が滅びる」とか言っても通用しなくなってしまったわけである。
噂は決してなくならずくすぶり続けると思うが、以前ほどの勢いはおそらく戻ってこないだろう。異常現象が頻発すれば話は別であるが。


◆「陰謀論」は世にはびこる
都市伝説はいわゆる「フォークロア」と言うべき個人にまつわるレベルの内容よりも、社会全体を巻き込むような「陰謀論」に近い噂の方が圧倒的に流布していくだろう。おそらく社会不安とか情報媒体の急激な変化など様々な要因が絡んで、近い将来、都市伝説=陰謀論が主流になるとも思っている。ただ現実問題として心配なのは、これらの陰謀論が娯楽ではなく、日常生活において「常識」化されることである(今年はその具体的な例を嫌と言うほど見せつけられている)。ネタで語るのはいいが、真に受けて真実化してしまうと、これほど厄介なものはない。世情不安を煽る形となって、世間から爪弾きされない程度に流布して欲しいと思う。


◆妖怪・UFO・UMAは変わらず
何か具体的な動きがない限り、この3つのジャンルは堅調だろう。良くも悪くも安定している。ただ可能性として、今年「子供向け」の怪談が結構刊行されたのに触発され、この種のものが取り上げられてメディア展開したら面白いだろうな、と言っておこう。児童書から火が点くと、結構長持ちすると想像する。


◆「語り」はますます発展するものの……
ネットラジオ関連はどんどん裾野が広がっている感が強いが、未だ玉石混淆。というより、お互いの足を引っ張り合うことが甚だしく、正直見ていられない(ラジオだから聞くばかりなのだが)。今年も舌禍から訳の分からない中傷合戦が起こっているし、どういうことで仲がこじれたのか解らないほどひどい粘着もある。とにかくかつてあった、サイト同士の内ゲバまがいのやり合いに似た流れになっている。
来年もこんな調子でカオスなまま動くのだろうが、少しぐらいは良い意味での淘汰がなされることを期待したい。現在は良い語り手ほど狙い撃ちされて萎縮あるいは消えてしまうという悪循環的な淘汰の方が目立つし、これが続けば、せっかくの媒体そのものが廃墟のような状態になってしまうと思う。大勢の語り手が切磋琢磨し、より質の高いものが提供出来れば、ますます発展するだろう。来年あたりはそろそろそういう流れが生まれてくるべきだと思うし、仮にそれが相変わらずの中傷合戦に終始するようであれば、結局のところ小規模なセクト主義に陥って、芳しくない未来となってしまうと予測する。
これに対してライブ系の方はしっかりと根を張ってきているように思う。ライブで活躍している人達と言って次々と具体的な名前を挙げることも出来るし、どんどん個人レベルも上げてきているように感じる。完全に1つのジャンルとして定着しつつあると言えるだろう。来年もまた新しい語り部が登場し、一層発展していくことと予測する。
また語り全般については、今まではオリジナルの実体験を語ることだけだったが、怪談話を「朗読する」潮流も出始めるのではないかと想像する(著作権の問題もあるから爆発的な広がりは難しいかもしれないが)。声を使って怪を伝えるという方式には、まだまだ大きな可能性があるように感じるところである。


……ということで、あまり大した予測もなく、どちらかというと希望的観測が多かったような気もする。今年の教訓はとにかく「想定外」の存在であるから、何が起こるやら分からないというのが最も正解のような気がする次第である(身も蓋もない話であるが)。
では「幽鬼の源」は来年も続く……かな?