著者別短評の3

No.10
大会期間を通じて21作を投稿。怪異の描写と登場人物の描写とは上手くミックスされ、しっかりとした目撃体験談を構成できているという印象である。特に登場人物の心理描写についてはかなり書き慣れている感があり、これが怪異の内容を際立たせているところが大きいように思う。いわゆる“あったること”だけを記録するのではなく、ストーリーとしての完成度も高いと言えるのである。高評価を受けている作品は、そのあたりの按配が絶妙であり、怪異の強烈なインパクトで引っ張るのではなく、しっかりと読ませる作品に仕上がっている。一日の長がある書き手であるだろう。ただし、この体験者の心理描写のきめ細やかさが、逆に白々しさを生み出す作品も散見できた。荒唐無稽な怪異を扱った作品は軒並み低評価であったが、これは怪異そのもののぶっ飛びぶりにも起因していると思う一面、登場人物が展開において多く露出しているために創作臭さを感じさせてしまったり、体験者自身の錯覚や思い違いではないかという印象を強めてしまった部分もかなりあるように思う。やはり怪異の本質によっては書き方のスタイルに変化を付ける必要もあるということである。全般的には、ある程度確立されたスタイルを持つ、力量のある書き手であると評価できるだろう。

No.13
前半と終盤に5作を投稿。真摯な書きぶりが印象に残る。しかし5作並べてみると、構成力の弱さが目立っているのが分かる。一番評価の高かった『指の痕』も、そのグラグラとした書きぶりが良い方向に転がった結果であり、決して意図的にざっくりとした書き方をしたわけではないと言える。他の作品についても一生懸命書いているのであるが、明らかに書き急いで余韻を残すことが出来ていないと感じたり、あるいはヤマ場を失ってメリハリがなくて伸びきっているように感じたりする。要するに、破綻まではいかないが、テンションを維持した状態で最後までいけずに失速する感が強いのである。途中までは丹念に書けているのであるが、締めの部分で駆け足になって、取り繕うようにまとめられしまっているという印象なのである。それ故に途中までの怪異の表現はいいのだが、何か中途半端に終わってしまっているように見えるのである。プロの作家でも、出だしと締めの部分は苦労するといわれる。だがその部分を綺麗に仕上げることが出来なければ、いつまで経っても弱点を抱えたままのアマチュアであるだろう。特にこのような短い文章内で、締めの部分でこけてしまっていると、全く見栄えがしない。他の書き手のパターンを意識して吸収して、それなりの着地の仕方を身につけて欲しいと思う次第である。

No.14
終盤を中心に、会期中9作を投稿。全体的な傾向としてはコミカルな雰囲気を醸し出す部分を持つ作品が目立つ。これは怪異の内容そのものがけったいでコミカルという場合もあれば、書き方で笑いを誘っている部分がある場合もありで、とにかくこの書き手が意識的に色付けしているとみなすべき特徴である。しかしながらこの傾向が成功しているかと言えば、あまり芳しからぬことになっていると言える。高評価を受けている作品は笑いの部分が非常に薄く、低評価になっている作品ほど書き手が意図的に笑いの方向へ持っていこうとしているのがすぐに見て取れる。つまり、書き手自身の指向している作品傾向は、読み手に受け入れられていないと考えて良いと思う。この結果は非常に厳しいが、やはり書き手自身が厳粛に受け止めなければならない事実であるだろう。恐怖と笑いを両立させることは、ある意味至難の業であると認識している。怪異そのものやそれによって起こったリアクションが笑いの要素を持っているのであればまだしも、怪異を差し置いて笑いへ誘導するのはよほどの筆力がないと無理だと思うところが大きい。端的に言ってしまえば“すべっている”のであり、正攻法で怪異を表出させる方向で書いた方が結果は良かったのではないかと思う。個性とするにはまだまだ力量が足りないと思う次第である。