著者別短評の4

No.15
2月のみに4作品投稿。全作品を通して見ると、実話を書く上での基本的な部分で問題点があるのが分かる。この怪異が現実に起きたものであることを裏付ける必須条件である“リアリティー”の部分で非常に弱さを感じるのである。具体的に言えば、怪異の中心となっているあやかしの情報が極端に少ないのである。例えば、現れたあやかしがどのようなものであったかを描写によって書き表すことなく、ただ単に“鬼”であったり“小さな人”であったり、一言で片付けてしまっている。それ故にそのあやかしの現実味が薄れてしまっている。本当に目撃したのであれば、もっと的確な描写ができるはずだろうし、何らかの引っ掛かりを想起させる言葉があってもおかしくないだろう。そのあたりが余りにも淡泊であるために、どうしても説得力に欠けると感じてしまうわけである。一番得点のあった自転車の怪異については、逆にこの情報量の少なさが幸いして、幻想的な雰囲気を偶然作ったのだと推察する(怪異の正体が“自転車”という、我々が見知った物だったことが欠点を補ったのだろう)。文章的な技量の問題ではなく、むしろ怪異をどのように表現するかのポリシーに従って、おそらく敢えてあやかしの情報を抑えているように見受けるが、実話の次元ではそれがリアリティーの欠如という問題にぶつかってしまって効果を発揮できなかった印象となってしまった感がある。

No.16
大会期間を通じて11作投稿。総じて堅調な書きぶりであり、個人的には平均的な怪談の書き手という印象である。書き方のスタイル自身はあまり大差はないのであるが、正統派からコミカルなネタまで微妙な変化を付けて書いており、怪異の本質にあわせて少しずつ色合いを変えてきているように感じる。怪異の本質を把握して作品を作り上げていると言えるだろう。特にジェントル・ゴースト・ストーリーの部類に入る作品は、全体的に落ち着いた文調にも一番適しており、一頭地を抜けていると思うところがある。しかしインパクトの強い怪異、あるいは事実関係が錯綜している作品になってくると、かなり弱さが見えてくる。『観察』あたりはネタの強烈さとしては一級であるが、この怪異を冷徹に表現することには失敗していると言えるだろう。また『訪問者』や『開けてください』は取材不足や舌足らずの部分が目立っており、勿体ない結果になっていると言えるだろう。おそらくこのような強烈な怪異を扱えるかが、この書き手の今後の課題になるだろう。描写力の幅を広げることが一番の近道だと思うし、また長目のネタをしっかりと構成する技量を養うことも必要であると思う。小さくまとまらずに、より高いレベルを目指して精進していただきたい。

No.17
2月末から最終盤まで21作の投稿。高評価を受けている作品を読むと、必ずと言っていいほど、思わずハッとさせられる言葉に出くわす。そしてその言葉が怪異と繋がっているために非常に記憶に残りやすく、想定以上に印象的であると感じることが出来るのである。また全体的に一つ一つの文がこなれており、そのあたりも書き手として手慣れているという感がある。しかし怪談の中核を成す怪異の表出にのみ焦点を当てると、非常に脆弱さを覚えるのである。特に評点の低い作品などになってくると、明らかに怪異のポイントを外してしまっていたり、あるいは全体的な怪異の積み上げ方がチグハグであったりする。そのためにストーリーそのものが胡散臭くなってしまう傾向があったリする。その点で言えば、上位作品も言葉のひらめきによって作品を高めている部分が強いという、穿った見方も出来るだろう。要するに怪異のインパクトなり、あるいは怪異そのものの持つ異質さによって、怪異譚を盛り上げている風には見えない部分が大きいのである。厳しく言えば、怪異の本質を掴み取ってそれを最大限に活かすだけの力量にはまだ不足を感じるところがあるわけである(ただし逆に言えば、言葉によって不足を補って評点を叩き出せる力はあるということになる)。怪異そのものの表現はもとより、そこに至るまでの流れをどうやって怪異に集約していくのかを考えて、文章を練ることを念頭において書くべきだと思う。

No.19
会期中を通してほぼ満遍なく10作を投稿。一番評価の高い『形見分け』だけは別格であるが(これは地に足の着いた、非常に完成度の高い作品である)、他の作品については必ず何らかの問題点を抱えているという印象がある。特に目立つのが、説明不足や情報不足によって、展開そのものがスムーズに読めないという問題点である。言葉が足らないために人物関係で混乱が生じたり、内容を圧縮しすぎて作品そのものの持つエグみを失ってしまったりと、隔靴掻痒の感が強い。ネタ的に良いものなので評点は取れているが、個人的にはこれだけのネタであればもっと評価が上がっても当然という意見である。むしろネタを活かした書き方がきちんと出来ていないと言うべきなのかもしれない。小ネタの怪異譚については比較的まとまっていると思うが、こちらも何となく据わりが悪い印象が残る。怪異の本質にまで迫り切れていないと言うか、怪異の見せ方が単なる表面的な説明描写に終わっている(書き手自身が取材した内容を再構築する際にどのような目的や意図で取捨選択をしているのかが、読み手に見えてこない)ような気がしてならない。どのように書くかも勿論大切だが、どのように読まれるかを意識して書いた方が、より鮮明な作品になれるように思うところ大である。