『おせっかい』

怪談、特に“実話怪談”という作品を定義する場合、ある意味絶対的条件として考えてもよいのが「ありうべからざる怪異の存在」即ち「超常現象と客観的に呼べる内容」が含まれていることである。創作怪談では、最も広義の位置に“漠然とした不安”を基盤とした作品があっても良いとは思うが、実話怪談ではそのようなカテゴリーは入れてしまっては、おそらく本来的な意味を失う怖れすらある。“実話怪談”とはあくまで心霊をはじめとする不思議の存在が前提にあってこそ成立する文学であると断言しても良いと思う。
この作品は、上に挙げた“実話怪談”の定義を考えると、完全に範疇の外にある内容である。書き手の意図としては、病院への行き道に点在する“不吉な場所”を提示することで不安に駆られたことを怪異の中心にしたいようであるが、果たしてこのレベルの内容が怪異と呼べるのかと言えば、間違いなく「超常的ではない」と一蹴されてしまうだろう。
ここで取り上げられた3人の死にまつわる事実であるが、記述内容から超常現象であったという確証は得られない。はっきり言えば、日常レベルの死亡事故である。さらに、この3つの事故に共通する何らかの符丁も見出すことは出来ない。つまり何らかの因果関係を持って密接に関係し合うような事故でもないわけである。もっと言えば、これらの事故のあった土地そのものにまつわる噂も書かれていないので、因縁めいた結論を引き出すことも不可能である。とにかくひたすら「病院へ行く道でたまたま起こっていた事故」という認識しか出来ない内容なのである。これではただ単に「人が死んだ場所の前を通る時は嫌な感じがして怖い」というレベルの意識をダラダラと書き綴っただけの内容に過ぎないのである。そしてこの次元の内容で「怪談」であると言われても、全くお門違いとしか言いようがないわけである。
さらに付け加えるとすれば、書き方の問題である。体験者とその話し相手が縁起でもない話をして震え上がるという展開なのであるが、その文体と調子は読めば読むほど、読者に対して恐怖や不安を煽るような筆捌きになっていない。むしろコミカルな印象であり、このエピソードに関する書き手の意図がどこにあるのか全く見当がつかないのである。正直な印象を言えば、酒席での与太話が書きたかったのかというレベルである。要するに、面白おかしく書くことが、人の死にまつわるこの話にとって相応しいのか、書き手はそこまで考え抜いてこの文体をチョイスしたのか甚だ疑問であると言いたい。道徳的・倫理的観点を脇に置いても、この内容でこの文体というのはそぐわない雰囲気であるだろう。
個人的ではあるが「怪談」としての要件を揃えていない点、そして書き方が内容と合っておらず雰囲気を損ねた点を考えると、最低評価はやむを得ないところである。やはりこのような匿名コンペティションの場では、正統的な作品で勝負すべきという意見である。
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