『彼岸より』

タイトルと、本題に入る前のエピソードで、どういう内容の怪異譚であるかは殆ど察しがついてしまった。いわゆる“死後の交信”と呼ばれるジャンルの典型的なパターンであり、内容としては古典的であるというべきものである。ジェントル・ゴースト・ストーリーの王道を一気に駆け抜けたと言ってもおかしくないし、実際、生前の夫婦のありように関するエピソードをきちんと書くことで、体験者の感情的な部分にまで踏み込むことに成功しており、画一的ではあるがそれなりの読み応えはあったと思うところである。
しかしその体験者の話の前後にある、葬儀の場面でかなり違和感を覚えてしまった。葬儀の場で「にこにこと笑みを絶やさないでお茶を啜っている」という描写で切り出されてしまうと、どうしても真っ先に“変な人”というイメージで体験者を捉えることになってしまうのではないか。さらに畳みかけるように「皆さん、何を悲しんでいるのかしら?悲しい事なんかちっともないのにね」というセリフを出されてしまうと、高飛車な言い回しの印象が強くなってしまい、これが体験者の性格付けのファーストインプレッションとなって、ジェントル・ゴースト・ストーリーとしてはかなり悪印象を持ってしまった。掌編レベルの話では、微妙な性格を徐々に文章の中で開陳していくのは無理があり、どうしても第一印象でほぼ全てを決めてしまう読み方になってしまうだろう。この点で言えば、葬儀場における体験者の言動は、ニュートラルな気持ちのままで本題に突入させるのにはかなり不利な展開であったのではないかと思うのである。
おそらく書き手としては、この体験者の突っ慳貪に近い物言いは、真理を知ってしまった者の強味というか、一つ上の次元の認識を持っているという印象を与える効果を狙っていると推測する。しかし最初の印象と読み終えてからの印象について言えば、かなり大きなギャップがあったことは確かである。王道に沿うために敢えて上から目線の物言いを改めるか(あるいは葬儀場でのやりとりを大幅にカットしてしまうか)、または本題の中で劇的なまでの心境の変化を見せる描写や表現を明瞭に出すかすべきだったのではないかと思う。
全体としては可もなく不可もなくのレベルであるが、掌編ゆえにもっと明快な流れのある展開があって然るべきだったのではないかという意見である。ただし怪異そのものの良さを損なうまでには至らず。
【0】