『チャリ』

今年最初の“投げっぱなし怪談”である。グッスリと眠っているところにこんな闖入者が現れたら茫然となるだろうし、寝起き直後の一瞬の出来事というシチュエーションを考えると、良くこれだけの情報を得ることが出来たなと思うところである。逆に言うと、夢とか錯覚ではないのかという意地悪な見方すら出来る状況ではあるが、やはり疾走する自転車爺さんのインパクトは、そういう妄念の産物とは言い難い具体性を持っていると言えるだろう。やはり“あったること”とみなすべきだと思う。
ただ最後の一文である「私の部屋は三階である」は、話の流れから見ても、斜め上を行った説明であるだろう。おそらくこの言葉が出てきた背景には、自転車の爺さんが壁を突き抜けて走り去っていった事実があるのだろうと推測するのだが、このコントのような状況自体が怪異として成立できるものなので、いきなり“三階”という表記ではなく、体験者の真横を通り過ぎた後の結末まで書いた方が良かったのではないだろうか。それからでも“三階”の表記は、十分インパクトがある言葉になったと思う。
一瞬の出来事、しかも特にその後に障りがないという怪異であるので、こういう一発芸的な構成にしたのは適切だったように感じる。ただ、最後の一文があまりに唐突すぎる内容であり、少々違和感を覚えたので、その分だけ評価は低くさせていただいた。とりあえず、可もなく不可もなくというレベルである。
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