『テニアン島の思い出』

いわゆる“戦争怪談”のパターンの王道であり、戦地跡へ赴いて、そこで日本兵の無念を追体験するという話である。
よく似た話を多く聞くが、テニアン島での怪異譚は記憶にないので、その点では希少性があるものと言える(壊滅した日本軍の拠点は太平洋上の島々に点在しており、同じ怪異パターンといえども、それを十把一絡げにして類話と称するのは“記録”として非常に問題であり、この種の“戦争怪談”の本質から考えても一つ一つを丁寧に拾い上げていく必要性があると考える。各基地ごとで起こった悲劇を“類話”の名の下で埋もれさせてはならない)。
テニアン島について確認すると、実際に“発電所跡”が戦争遺跡として残されており、アメリカ軍がテニアン島上陸戦で占拠している。発電所跡に司令室があったか、またここで日本兵が自決しているかまでは確認できなかったが、激戦の地であったことは間違いない。それ故に“記録”としての信憑性はかなり高い内容であると判断したい。
しかしながら、多くの指摘があるように、これを“実話怪談”と見る場合、どうしても冗長さは免れないものであると感じる。一個人の体験手記としては貴重なものであるとは思うが、怪談として万人受けするレベルにまでは昇華し切れていないと言えるだろう。心霊的なものにほとんど関心を抱いていない人間が突如体験した怪異であり、窮地を救ってくれた婦人からその時点で根掘り葉掘り真相を聞き出そうという発想も起こらず、体験者(書き手)自身おそらく最近になって思うところがあって手記とされたのではないかと想像する。それ故に、この構成と内容が限界であり、これを一つの怪談ストーリーにまで仕上げるよう要求するのは難しいだろう。個人的には、あくまで“戦争にまつわる怪異証言記録”の一つとして評価をしたいと思う。怪異の内容の強烈さを求めるのも怪談の醍醐味であるが、同時に非業の死を迎えた人々の声なき声を拾い集めて集成するのもまた役目である。
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