『暴風』

一言でいえば、現象を怪異にまで引き上げることに失敗してしまった、ということになるだろう。
親子が揃って喉の違和感を覚えて体調が悪くなる事実、そして窓一面に枯れ葉などが張り付くほどの暴風、この2つの現象の因果関係が明確にならなければ、常識的に怪異であるとみなすことは非常に難しい。確率的には低いが、家族全員が同じ体調不良になることも、大風で家の窓に大量のゴミがへばりつくことも、どちらも単独の現象としては“物理的に”起こりうる内容である。当然のことながら、この2つの現象が同時に起こる可能性は捨てきれないわけである。つまりここに書かれた内容は“偶然の一致”がなし得たものであり、決して超常的な怪異であるとは言い切れない、あるいは科学的な説明によって容易く解明できるのではないかというレベルの話であると思えてしまうのである。勿論最後の部分で、ゴミを取り除いたら体の不調が収まったという記述があり、極力この2つの現象に因果関係があるように主張しているのであるが、いかんせん、それ以上強力な因果の根拠を見出すことは出来ない。
因果関係の弱さの理由は、おそらく起こった暴風が尋常ならざるもののように見えないという点にあるのではないかと思う。この作品に書かれた内容から推測できるのは、体験者の驚き具合が少ないためにこのような暴風が過去にもあったのではないかという疑念が残る、そしてこのエリア全体に暴風が起こっていてこの一家だけが例外的に被害を受けているとは思えない、ということである。例えば、この家にだけ被害が集中していたとか、後にも先にもこのような暴風が起こったためしがないとか、そういう“非日常的”な現象であったことが強調されていたら、もう少し因果の糸が見えていたような気がする。
やはり、読み手に対して明確に異常であることを示す表現(体調不良ではそのような記述があったが、インパクトを獲得するところまではいっていないと感じた)がないと、特にこのような物理的な説明が付けられそうな内容については、怪異として認めるのが難しいところがあると思う。
【−5】