『グレー』

怪異の内容としては非常に希少なものである。あやかしに導かれて、気が付くと死地に誘い込まれていたという話は、相当数の類話がある。このような繁華街の雑踏が舞台であるケースも複数読んだことがある。それ故に夫婦のみの体験談であれば、さほど興味を惹くような内容ではないと思う。だが、同時間帯に全く別の場所で全く同じ人物の組み合わせが現れたという証言が存在するケースは、極めて稀であると言わねばならない。この事実だけで、十分評価できる内容であるだろう。
ただしこの作品の評価には難しいと思うところがある。書き手がどこまで意識しているか分からないが、全体を支配する雰囲気が恐怖ではなく、強烈な不思議感、個人的には“けったい”という言葉がしっくりとくる印象であり、これを読み手がプラスに取るかマイナスに取るかによって評価が変わるのではないかと思うわけである。特に後半の核心部分にあたる、姉の目撃証言のシュールな状況は大真面目に詳細を書けば書くほど、奇妙を突き抜けた笑いに近い感覚を覚える。そして一番は体験者の服装。識別には最適なのであるが、裏を返せばそれだけ奇抜に見えるものであり、これを2回強調しているところを見ると、思わず頬がゆるんでしまうのである(タイトルにも、あやかしのシンボルカラーであるグレーを用いているところを見ると、書き手がかなり色にこだわっているのではないかと推測するが)。正直言うと、書き手自身が本気で怖がらせようとは思っていないのではないかという印象すら持った。
個人的には、どこかすっとぼけた調子が全体を通して一本筋を通して存在していると感じたので、マイナス評価にはしなかった。一歩間違えば命に関わる大事になっていたかもしれない、それ故に恐怖に満ちあふれた展開でも良かったかもしれないが、こういう味わいもまた、ありではないかという意見である。
【+2】