『席の無い子』

冒頭部分の主人公のエピソードから怪異にまつわる伏線が綺麗に張られており、ストーリー全体が非常に有機的に出来ている印象である。最後の卒業式のエピソードで、主人公以外にも見えている人がいることが判るのであるが、その見える生徒たちが学校内でどういう立場にいる者であるのか、話の中では語られてはいないが、それでも十分にそれを察することが出来る故に、この怪異譚は哀しくもあり、やりきれないものを強烈に感じさせてくれる。最初から最後まで、書き手の意図するものが計算ずくで置かれているのがよく分かる作品であり、その意図を的確に表現することにも成功していると言えるだろう。非常に優れた怪談話である。
ただ惜しむらくは、校外学習のエピソードである。この話だけが時期的な記述もなく非常に唐突に出されており、主人公が霊を確信する重要な転機であるにもかかわらず、非常に浮いてしまっている感が強い。また起こっている怪異の描写も非常に切れ味が悪く、バスの位置関係や、霊体が現れた場所についても少々雑な印象を受ける。もっと言を尽くして説明をするか、それとも自分の目の前に霊が現れたことを前面に押し出して、他のバスに現れた現象を最小限度に抑えて書いた方が良かったかもしれない。それ以外の部分が非常に緻密な書き方をしているので、ここだけ妙にアラが目立ってしまっており、残念である。
イジメにまつわる怪異譚としてはオーソドックスな展開なのであるが、登場人物の心理を的確に言動によって読み手に提示することが出来ている分だけ、一つの物語としての完成度は高いと言えるだろう。主人公のみならず、現れた霊体にまで感情移入することが可能であり、なかなかの佳作であると思う。
【+3】