『素材倉庫』

この作品も、文体によって大きくマイナス評点とせざるを得ないものとなってしまった。「です・ます」調の文体は、文字化されると途端に稚拙なイメージがつきまとい、それだけで大きなハンディを背負うことになると思う。「一人語り」文体(喋っている言葉をそのまま文字化したような文体)同様、特別な効果を期待する時以外には使わない方が無難であると思うし、わずかな瑕疵でも(誤字脱字のレベルですら)文章能力を著しく欠く書き手のように見られてしまう危険を伴っていると言える。この作品の場合も、この敬体の使用以外に句点の打ち忘れがあるために、相当レベルの低い文章に感じてしまうのである。
肝心の怪異であるが、体験者以外に目撃者がいないが、それでも全体の流れからそれなりに怪異であると判断できるものは揃っていると思う。ただ文体のほとんどが「〜そうです」という伝聞体であるために、どうしてもリアルな印象に乏しく、読み手が追体験できるような体験談になり切れていない。ある意味、最も読み手の共感を得にくい書きぶりになっていると言えるだろう。ここでも文体によって、せっかくの怪異が台無しになっていると感じる。
さらに言うと、体験者が探しに行ったテープの情報が書かれていないのは、非常に残念。いかにも怪異が起きそうな因縁の内容ならばなおさらだし、全く怪異と縁のない内容でも、書かれているだけで読み手はそこから何か奇妙なものを読み取ろうとする。また具体的な種類名が提示されるだけで、この怪異体験自体の信憑性が増すという効果もある。そういう観点からも、テープに関する情報(タイトルでなくても、せめてカテゴリーだけでも)があった方が良かったと思う。
文体が平板な常体の説明文で書かれてあれば、もう少し読める作品になったと思うし、評価も上がったのではないだろうか。
【−4】