『見えるもの』

これだけの分量で登場したエピソードは全部で5つ。下手をすると、わずか数行で“あったること”としての事実が書かれているだけという感じであり、目まぐるしいぐらい次々と話が展開されているのである。しかし言うまでもなく、このような軽い紹介程度の内容であるために、それぞれの怪異もほんのさわりだけという印象であり、ひとつのまとまった怪異譚としての面白味はほとんど感じられなかった。それどころか、作品全体の構成についても支離滅裂という印象が強かった。
例えば“夜勤時の「患者の死」の遭遇率”について触れた直後に“亡くなった直後の患者の霊目撃”へいきなり移り、さらにそのような目撃体験が減って“顔の上に名前が重なる”という本来のメインの怪異がようやく登場するわけである。これが10行程度の中に押し込められて書かれているために、どのエピソードも表面を撫でただけ、しかも関連性について言えばほとんど羅列に近い印象しか残らなかった。
さらにメインの“顔の上に名前が重なる”というトピックも、2つの小さなエピソードに分かれるのであるが、その前半の“オンラインゲーム”の話は果たしてどのような形で相手の顔を見ることが出来たのか、シチュエーションの点で納得がいかない。また後半の“ストーカー”の話はまたいきなりの特別なバリエーションであり、しっかりと怪異の内容を検証することすら難しいと感じた次第である。
ある意味目を見張るような能力を持っていると感じるのであるが、反面どの能力も中途半端な書かれ方であるために、怪異の深い部分にまで手が届かないというもどかしさも覚えてしまった。結局、簡単なプロフィールを読んだだけ、内容的には非常に底が浅く、持っている能力に関する詳細はまたの機会にという感じで終わってしまったと思う。もう少しエピソードを絞り込んで、しっかりとした展開のあるストーリーを構築した方がもっと興味深いものになっていただろう(本人が乗り気でないのは解るが、そこをもっと突っ込んで聞き出すのが“取材”というものである。言い訳で終わっているようでは、やはり評価は低くせざるを得ないだろう)。
【−1】