『指の痕』

タイトルもストレートなら、ストーリーの展開もストレート。怪異の内容は、どちらかというと既視感があるレベルなのであるが、あまりにも直球ど真ん中な流れであるために、却って新鮮味を覚えたほどである。良く言えば、ややこしい表現技巧などお構いなしでひたすら怪異の核心部分だけを伝えている、純粋な怪異の記録である。ただし悪く言えば、愚直なまでに怪異のみを追い求めすぎて華も面白味もない、いわゆる“怪談”としての醍醐味に欠けている印象しか残らない。
表現技巧に走らずしっかりと怪異の内容を時系列的に記している点では、実話怪談の記録性に忠実であると言えるだろう。しかしその書きぶりが、おそらく取材した時の聞き書きに限りなく近い書き方、つまり状況説明に徹した文であり、他の作品のような“描写”がほとんどないために、硬質を通り越して非常にぎこちない、文章を書き慣れていない人物が記述したような印象を持つのである。これが、正確だが無味乾燥でパサパサした感触を生み出しているのだと推測する。
ただ面白いことに、このようなザラッとした感触が怪異の内容に非常にしっくりと合って、独特の風合いを出しているように感じる。おそらく奇を衒って大仰に書いても、また変化球を用いて面白おかしく書いても、間違いなくあざとさが勝ってしまって怪異そのものも台無しになっていただろう。味気ないが、怪異の希少性や恐怖レベルを総合的に考えると、この書き方がベストに近いもののように思えるのである。もし書き手が計算尽くでこの文章スタイルで書いているとするならば、相当なセンスの持ち主と言うしかないだろう。
怪異としては平凡な内容であるのでさほど評価は高くないが、評点については若干色を付けても良いと思う次第である。
【+1】