【+1】あみんぼ

期せずして“胎児の記憶”のまつわる話が連続して出てきた。
普通は早い者勝ちなのであるが、今回に限って言えば、後の方の作品の方がよくできていると思った。
この種の不思議譚の最大の弱点は、生まれる前の記憶が本人自身の体験によるものではなく、誰かから後日に聞いた話を刷り込みされた記憶として語っている可能性があるという点である。
この作品の強い部分は、人語を話し始めたばかりの赤ん坊が母親の前で語ったところ。
“刷り込み”による記憶が形成されないだろう時期に発した内容であるだけに、信憑性の高さはかなりのものであると言えるだろう。
だが、舌足らずと思われる問題点もある。
編み棒をテレビの裏に落とした事象が本当に過去に1回きりであったのか、それについての言及がないために、母親の記憶違いではないかという疑念がある。
また“胎児の記憶”として刻まれるだけの内容であることを補強するために、単に「お腹が痛くなった」だけではなく胎児自身が動いたというような事柄が書かれてあれば良かった(ないなら仕方ないが)。
そして一番気になるのが、なぜ娘が編み棒のことを口したのかの理由が書かれていない点である。
母親が何も言わずに編み棒を探しているところにやってきて編み棒の在処を話したら、それは別の意味で凄い超常現象になっていたと思う。
細かい指摘であるが、精巧な怪談話であればそこまで計算して書くべきだと思うし、その方が評価もさらに上がっていたと思う。
劇的な話ではないが、それなりにきれいにまとまった話であった。