【+2】廃院を巡る不条理

人の住まない廃墟であるという理由だけで、あやかしはそこにたむろし始める。
特にその土地に関係しない霊であっても、人の住まなくなった場所のような“陰に籠もった”所に集まってくるものである。
この作品に登場する廃院もそのような場所の一つであり、不条理というタイトルはいささか大仰に聞こえる。
当然廃院以外にも、通ってきた道にあやかしが潜んでいた可能性もあるが、その雰囲気を考えると廃院から連れてきてしまったと考えるべきであろう。
だが、この廃墟探訪の場面が長すぎる。
文章が練れているので冗長という気分に陥ることはないが、後半に登場するあやかしとの遭遇場面に対するバランスを考慮すると、何も起こらなかったエピソードに力点を置く必要性が感じられない。
この作品も雰囲気作りに奔走しているように思うし、どうしても“小説”的手法が強く印象付けられる。
“実話怪談”の場合、怪異さえ成立すれば良しとする傾向が強い。
それ故、例えばこの作品のように何も起こらなかった場面の描写については、怪異に直結する内容以外は取り立てて書かないのが常であろう。
恐怖感という雰囲気を敢えて作らなくとも、怪異さえ強烈であれば事足りるという発想であるとも言えるかもしれない。
“実話怪談”の妙は怪異の抽出であるという個人的観点に立ち、この作品についても高い評を出すことは控えさせていただく。
(ただしこの作品の手法は“実話怪談”の筆法に照らして誤っているとは思わない。怪異の肝とのバランスさえ上手く取れば、非常に重量級の作品に化ける可能性を秘めているという肯定的見解の方が強い)