【+4】目

ドロドロというよりは、まとわりつくような不快なネットリ感を醸し出す作品だと思う。
一番効いたのは、生霊として現れる奥さんと、現実世界の奥さんとのギャップであろう。
現実の奥さんが健気であればあるほど、体験者の目の前に現れる生霊が持つ怨念の深さが言外に溢れてくる。
またそれを正確な描写説明で克明に書いているので、単なる幻覚ではないというリアルな雰囲気がまた厭なムードを助長していると言える。
浮気にまつわる典型的なストーリーなのであるが、作者が生霊の出現理由の本質を理解して、それに見合うような表現構成をしているために、ありきたりの目撃談にとどまることなく心理的な圧迫感というものを感じる。
生霊の最も恐ろしい点は、本人すら意識しない心理が作用してそれが表面化していることにある。
つまり笑顔で接している奥さんであるが、実は浮気を知っているのではないか、あるいは事実を掴んでいなくとも何か思うところがあるのではないかという暗黙の納得を引き出しているのである。
だからこそ、現実世界の奥さんの様子をしっかりと書き出すことが、生霊の持つ激しい念の強さを補強しているのである。
仮に帰宅後の奥さんの様子がなければ、生霊の念の深さを感じることもできず、場合によってはその存在自体やはり幻覚であったのではと思わせる危険すらあったと推察する。
浮気と生霊の組み合わせの怪談としては、かなり傑出した作品であると言えるだろう。