【+4】水の中に

1つの作品に押し込めてしまうのが勿体ないほど、貴重な妖怪体験談である。
前半の初遭遇のエピソードは少々周辺のことを細かく書きすぎている印象もあるが、押さえるべき点を押さえているので体験談として問題なく成立している。
特に貴重なのは祖母の発言である。
実話怪談の場合、具体的な場所が分からないようにぼかすのが常道であるが、この作品だけはせめて地方名だけでも書いていて欲しいと思った(個人的には四国地方あたりではないかと推測するが、どうだろうか?)。
いわゆる民俗学の視点からも、かなり意味のある体験談であると思う。
そして後半の追いかけてくるあやかしであるが、こちらはこちらで恐怖譚のネタとして興味深いものがある。
水さえあればどこでも現れるあやかしは、本当に体験者を狙っているのだろうか。
既にいい大人になっているのだが、やはり悪さをやってやろうと考えているのだろうか。
“河童”という妖怪にまつわるエピソードとしても希少性の高い内容であると思う。
ただ残念なのは、全体の構成に不安定さを覚えてしまった。
連続する怪異なのであるが、どちらが主になっても不満が残るほど、いずれ劣らぬレベルのネタである。
作者は前半の体験にウエイトを置いたが、当然後半の怪異の方を支持する読者も多い。
いっそのこと冗長覚悟で全部を丹念に書ききってしまうか、完全に独立した2編の怪異とすべきだったのかもしれない。
それの方が“怪談話”としての面白さを十分引き出せたように思う。
ただしそのような展開の問題を差し引いても、この作品の怪異は恐ろしいぐらい素晴らしい。
書きようによっては屈指の妖怪体験談となったかもしれないだろう。