【+3】五里霧中

旅の途中で道に迷い、異界と呼ばれる世界にはまりこんでしまう話は結構ある。
この作品もその種類なのであるが、その世界での体験が際立って異常である。
特に、むやみに怒りの感情にとらわれたり、ドッペルゲンガーの如き人物を目撃したりするところは、狐狸の類が絡む異界話では見られない異常性が認められる。
そして宿の女将の話しぶりから、この異常の怪異がそこそこの頻度で起こっていることが分かる。
つまり突拍子もないレベルの怪異がある程度頻繁に起こっているのである。
ここにこの怪異の希少性を見ることができるし、並の異界譚とは一線を画するところである。
ただこの作品も、怪異一直線のストーリー展開ではなく、体験者の微妙な心理を意図的に書こうという作者の意志が感じられる。
この作品の場合、体験者の怒りが助長されていくことも怪異の一つとなっているのであまり気にはならなかったが、度を超した体験者の心理描写は“創作臭さ”という方向へ暴走しかねない危険がある。
腕に覚えのある作者であればいいのであるが、決して勧められるスタイルではないということである。