【+1】あれは

描写に徹した書き方をすると、どうしても作中に登場する人物の様子が冷静で客観的な人間のように見えてしまう。
この作品は、その冷静さが特に目立ちすぎているように感じる。
一番の理由は、体験者=私の目線書かれた内容であるにもかかわらず、いわゆる“神の視点”から書かれたような印象を受けるからである。
別の言い方をすれば、体験者が完全な“観察者”として事象を追っているからである。
そのために、客観的にしっかりと怪異を描写しているにもかかわらず、それが非常に冷淡な人間のなせるわざに見えてしまっている。
またそれが悪印象の方に繋がってしまっており、あまりいい結果をもたらしていないようである。
ただし、怪異に関して言うと、かなりすごいものを見てしまったように思う。
描写されたままを読むと、まさにあやかしは死霊の集合体、いわゆる“レギオン”と呼ばれる邪悪な念を持つ奴であると判断できる。
弟の猫の死とどのような関係があるのか判らないが、かなり珍しい目撃談であると言えるだろう。
(こういう集合体の霊は、自殺の名所などのように、複数のものが同じ場所で時間を掛けて死に続けている場所に地縛霊として住みついていると言われており、このようなケースは寡聞である)
せっかくの貴重な体験が、怪異とは全然別の次元で評されないのは惜しいと言わざるを得ない。
もしこの話の主人公として第三者を設定して書いたとすれば、突き放した書きぶりがうまく噛み合ったように思うが、どうであろうか。