【+2】はらさ!!

内容を整理すると非常に怖いと思うのだが、読んでいるうちはあまりそれを感じなかった。
やはり描写が勝ちすぎた文章というのが、体験者の緊迫感を殺してしまったと言うべきなのだろう。
特にこの作品は、あやかしと体験者との距離が接触しているほどの近さにもかかわらず、という印象が強い。
玄関先という狭い空間であり、あやかしに肩を叩かれているという状況を、恐ろしいぐらい冷静な筆さばきで描写しきっているために、物理的な距離感と心理的距離感とのギャップに戸惑ったというのが正直な感想である。
常識的な発想であれば、眼前にいるはずのない坊主頭で舌の長い女が這いまわっていたら、もっと狼狽するに違いないだろうし、気を失ってしまってもおかしくないと思うだろう。
というよりも、ここまで詳細なあやかしの行動を客観的に目撃できたのかという疑念すら起こってくる。
結局のところ、この徹底された冷静な観察眼が却って、怪異体験を胡散臭いものにしてしまったように感じる。
もしこれがかなりの距離がある場所(体験者自体に危険が生じないだろう場所)からの観察による描写であれば、文句なしにリアルな怪異として受け入れられたであろう。
あるいは体験者の恐怖感を示す言葉がいくらか配置されていれば、もっと臨場感が出る構成になったのではないかと思う。
シチュエーションとそぐわない雰囲気を文章が醸し出している以上、好評価までは至らず。