【+3】入り江

強烈なネタであり、そのネタを十分表現できるだけの筆力があるので、引きずり込まれるように読むことができた。
普通、「出る」と言われる場所へ肝試しで行ってもなかなか怪異に遭遇することもないし、ほとんどが空振りに終わってしまう。
それを思うと、この場所が如何に呪われた禁断の地であるかがよく分かる。
特に前半部分はその怪しい場所の場景を細かく描写して、雰囲気を盛り上げることができている。
ただ手に取るようにイメージしやすい場景描写は、簡単に映像化できるためにまるで映画の1シーンを見ているような錯覚も起こしやすい。
実際この作品の場合、いわゆる“ゾンビ映画”を彷彿とさせるイメージがつきまとった。
賛否のあるところであるが、わかりやすさの追求は紋切り型やマンネリパターンと結びつく怖れがあるということである。
そしてこの作品で最も弱い部分は、前半の場景描写に比べて怪異そのものの描写が少ない点である。
登場人物の動きに焦点を当てて活写する小説であればこれでいいのかもしれないが、実話怪談となれば作品の本体は怪異という認識が働くため、どうしてもバランスが悪いという気がした。
筆力もありネタも上質なのに一番読みたい部分が少ないという、ある意味ジャンキーにとって最も中途半端に感じる作品になったようにも思う。