【+3】午前2時10分

ある意味で一つの確立されたスタイルである。
徹底して克明に書かれた描写によって怪異を丹念に追体験させるスタイルであり、ここまで精緻に金縛り体験を書いた作品は見たことがない。
特に奇抜なレトリックを使っている訳でもないし、奇を衒った表現を前面に押し出しているわけでもない。
とにかく出来事として記憶しているだけの情報を時系列的に並べ、そこに体験者個人の心理的変化や感情の動きを的確にはめ込んでいるだけの、正攻法の怪談話に徹している。
だがその綿密な記録方法が突出して既成の作品を凌駕しているために、全く新しい印象を作りだしていると言える。
過去にもこういうタイプの作品はあったのだが、その殆どはあまりにも主観的な書き方によって「くどい」という印象だけが残ってしまった。
この作品の場合、作者の筆力が冗長になりがちな徹底された経緯報告を読みやすいものにしている。
そのためにダラダラとした書き方にならず、一定の緊迫感を持った内容が最後まで保てたことに成功があったように思う。
文章による構成力は抜群であると認める一方、怪異のネタがあまりにも貧弱。
金縛りネタとしては破格の評であるが、ネタ自体にはほとんど点数はない。
金縛りに遭った体験者の周囲を回る霊体の話など、それこそ掃いて捨てるほどある。
それでもここまで評価したいだけのスタイルの魅力があるという方が正しいのかもしれない。
このスタイルで複数作品を読んでみたいというのが、希望である。