【0】石油ストーブの灯火

やたら装飾的な技法が多いのだが、まだそれらを使いこなすまでに至っておらず、読者を惑わせるだけの効果しかなかったようである。
一番に引っかかったのは、2段落目の冒頭部分である。
唐突に「正月の時」の話と書かれても、最初に「居間でストーブの近くにいた時」と書いているから、時系列がおかしいと指摘されてもやむを得ないだろう。
特に最初の設定が「居間でお絵描き」であり、イメージとして自宅で独り遊びという印象が強かった訳である。
すぐ近くで宴会をしている大人がいるという雰囲気が全然読めないため、さらに混乱を招いたと思う。
また「ストーブの赤く燃える楕円の球体」という暗喩的な表記も、何を意味するものか理解に苦しんだ。
(多分、旧式石油ストーブの中央にある円筒の上部にある金網のことだろうと解釈したが)
そのような特殊なレトリックを使っていながら、怪異の部分、特に手が次々と虚空から出現するあたりの描写はなおざりとしか言いようがない。
怪異は小粒ながらあまり例を見ない内容だっただけに、残念な気分である。
“実話怪談”はまず、怪異の再現に文章技術を駆使しなければならない作品だということを認識すべきである。