【−3】自爆

怪談の信憑性にかかわる問題が生じる部分とは、怪異自体の発生にまつわるところではなく、むしろ怪異同士の連携や、怪異にまつわる周辺事項に集中しているように思う。
現実的でない怪異については、作者自身も慎重にリアリティーを維持しようとする意思が働くために、めちゃくちゃな破綻はあまり見られない。
ところがさりげなく書かれた部分にこそ、どう考えても「あり得ない」と思う表記や描写が出てくる。
この作品も怪異そのものが幼虫が爆発するというとんでもないネタなのだが、引っかかったのはそこではなかった。
その幼虫を捕らえた鳥の表記である。
鳥が幼虫を捕らえたのは「鉤爪を持った足」であると書かれているのだが、昆虫を捕食する鳥類のほとんどは“くちばし”で捕らえるはずである。
しかも鉤爪で捕らえる場合、鳥は身体の構造上、羽を大きく広げて滑空するように獲物に急接近してくる。
体験者がすぐ傍にいるにもかかわらず、鳥がこのような大胆な行動で昆虫を捕らえることが可能なのだろうか。
この作品の表記でイメージした鳥は、まさしく小型の哺乳類を捕食する“猛禽類”、すなわちワシやハヤブサのような大型の鳥である。
この違和感が取れない限り、この作品に対する信憑性を疑い続けることになるだろう。
常識では考えられない怪異でも“あったること”として読もうとする限り、それ自体の可能性や信憑性に疑念を差しはさむことを、怪談読者はやらないだろう。
読者が不自然さを感じる時とは、科学的常識・経験則的常識として怪異以外に設定された事柄に対して疑念を抱く時なのである。