【+5】浜辺

純粋な“戦争怪談”として珍重すべき作品。
“戦争怪談”を語れる直接体験者は多分この10年で絶無に近い状況になるだろう。
特に戦場の怪談の体験者は年齢的に80才を超えており、現在最も収集・記録が急がれるといっても過言ではない。
しかも内容が、南方の島に土着する怪異に関するものであるから、なおのこと希少性は高い。
文章全体としても、非常にしっかりとした記述がなされ、記録としての価値も高いと思う。
前半の土着民との交流などは本筋の怪談とは直接関係ないとしても、絶対に残されるべきだという思いであるし、むしろもっと戦時の記録として後世に伝えたいという気持ちの方が強い。
(個人的には、この交流の部分があるからこそ、魔物という突拍子もない存在の信憑性が出てきているように感じる。つまり消えた足跡の怪異と土着の信仰が自然に結びつけられる、怪談話の伏線としての役割があると思う)
怪異を際立たせるために前置きを極力削るのが怪談の常套手段であるが、時代背景が重要なファクターとなっている作品にまでそれを適用させるのは、怪異の持つ特異性を殺してしまう危険性もあり、あまりにも杓子定規に過ぎると思う。
怪異そのものについても、照明弾で照らされた瞬間に足跡が消えているのを見てしまったくだりなどはシンプルなのであるが、非常に劇的な情景としてインパクトが強かったと思う。
とにかく文章も標準以上であり、ネタの素晴らしさを活かしてくれたように感じる。