【0】金縛らず

まず最も気になったのは、なぜここまで“金縛り”にこだわるのかであった。
怪異の現象を分析しても、全く金縛り状態にはなっていないことがわかる。
むしろ意識過剰なのは体験者自身だけであることに気付く。
怖くて身体が動かないということだけであって、体験者自身が「動こう」と思えばいくらでも動ける状態だから、これを金縛りと称することには無理があるし、むしろ誤用に近いものを感じる。
さらに自分が寝返りを打ち続けることによって怪異の起こる時間が短くなる結果を受けて「だから金縛りにならなかった」と言われても、説得力もなく合理的に納得できないと思う方が自然である。
この変なこだわりのおかげで、何かしっくりといかないものを感じた。
(あるいは一般的な“金縛り”ネタに対するアンチテーゼとしての意図があったのかもしれないが、あったとしてもこれも空振りに終わっているように感じる)
“金縛り”という言葉を一切使わず、最後のオチにだけ全てを賭けた書き方をした方が、読者の共感が得られたように思う。
オチに関しては「一本やられた」というところである。