【+5】ジェイムシーズ

怪異のネタとして第一級クラスのものであると思う。
一人の人間の分身体が複数存在するのが確認される、しかもそれが数珠繋ぎのように目の前を通り過ぎるなどという話は初見であり、この希少性は信じがたいほどの高さである。
また文章の組み立てが非常に巧妙であり、笑いを交えさせることによって、下手をすると深刻な内容に陥りそうな話を読みやすいものに仕立てたという印象が強い。
特にジェイムシーズの行動があまりにも本能のままホンネ全開で、あっけらかんとしているのを活かしきったというところだろう。
作者は“ドッペルゲンガー”という表記を使用しているが、そのような別人格の分身体であるという解釈はしていないようだ(ドッペルゲンガーは通例、本人とは全く違う意志を持つ、別人格として存在する分身とされる)。
白眉とも言える宴会のエピソードの後につけられた飛行機のエピソードに、作者のジェイムシーズに対する解釈が書かれていると思う。
ジェイムシーズとはストレスによって生じる負の思念が物質化したもの、と作者は考えているのだろう。
つまり目撃されたジェイムシーズは、ジェイムズとは別人ではなく、彼のイドによって作り出された分身なのである。
笑いを誘う文章の中に、冷静に怪異の本質を見極め、独自の解釈を暗示する。
ただ唸るしかないレベルである。