【+3】海神祭

地元の風習や祭にまつわる怪異は、不気味でありながら何か美しさを感じさせる。
特にこういう負の存在を祀り、それが連綿と受け継がれている風習には、何やら秘密めきながら暗黙の了解によって守られているという微妙なバランス感覚を覚えてしまう。
この作品も、海に浮かぶ頭部の情景が不気味でもあり、それでいて粛々と移動する様子が何かの力に導かれているようで、畏敬の念というものが滲み出てくる感じがする。
また文章がこのネタに非常に適合している印象を受けた。
いくつもの独立した文を読点で繋いで1つの文にするというスタイルは、一見悪文のように見えるが、短文の連続で息をつかせぬパターンとはまた違った、独特の息遣いを感じさせる。
作者が修練によって覚えた書き方であり、もしかするとこのネタの雰囲気に合わせてこのスタイルを選択した可能性すらあり得る(怪異の肝に突入する寸前だけ「ひとつではない。何十という数である」という文の長短による印象付けをしている点は見逃せない)。
怪異の性格上どうしても叙情的な雰囲気を出す必要性があり、これを文章が美味くフォローしているように感じた。
強烈なインパクトはないが、長く印象に残る作品のように思った。