【+2】直立

海のレジャーをする人が体験する怪異の中でもかなりのものだと思うのだが、どぎつい恐怖感というものが伴っていない。
その原因は、作者による体験者のキャラクター作りにあるように感じる。
関西弁でまくし立て、豪快にビールを飲み干すオッサンという、かなり濃いキャラクター全開で話を始めている。
水死体に対してすらあまり恐怖感を感じさせない性格を前面に出してしまったことで、作者自身がそういう人物が腰抜け状態で怪異に遭遇するシチュエーションが書ききれなくなってしまったような印象を受ける。
つまり、この種のパターンは体験者が恐怖の絶頂に襲われることが王道にもかかわらず、その部分を徹底的に書けなかった(あるいは書かなかった)ことで大きく失速してしまったのだろう。
海の中で出くわす怪異に対しては、生命の危険性があるという観点から、100%“逃げ”という結果になってしまう。
いくら剛胆キャラを作りだしても、この“敵前逃亡”のパターンだけは崩しようがないから、どうしても印象が悪くなってしまう(まさか自分の命も省みず、あやかしを追い回すようなことは出来ないだろう)。
さらに間が悪いことに、自らの“恐怖”体験を語った後に「ここからがおもろい」とかいうセリフが入るため、強弁に努めているような印象を受けてしまった。
しかもその「おもろい」内容が大したことがなかったから、ますますきまりが悪くなる。
いっそのこと体験者のキャラクターをカットしてしまって、王道パターンで書ききった方が良かったようにも思う。
それか思い切って、剛胆オヤジが情けないほど恐怖に駆られるようなシチュエーションにしても良かったのかもしれない。
いずれにせよ、折角のネタが色褪せてしまった感がある。