【+5】蔵の中

“実話怪談”云々を超越して、久々に本物の【王道怪談】を読ませていただいた。
怪異そのものを克明に描写することで読者に圧倒的な恐怖を味あわせるものが昨今の怪談話の主流であるが、戦前の怪談(特に文芸怪談)では、怪異の周辺を際立たせることで“障子に透かした影”の如く怪異を見せつけるのが極上の話のパターンとして位置づけられている。
まさに“雰囲気で怪を味わう”ことに成功したこの作品は、その系統を受け継ぐ作風を持つ。
特に冒頭の一文は、文芸に長けている(あるいは高次に意識が出来ている)作者の技量が見て取れた。
この一文で、読者は無意識のうちにこの話が新聞屋による伝聞形式で書かれ、禍々しい結末が起こることを予測している。
何が起こるか解らないびっくり箱もいいが、あらかじめ終点が決められて(ただしネタバレではない)、ギリギリとその中心に締め付けられていくプロセスを感じていくのも一興だろう
そして内容であるが、怪異を軸とした狂気のカタストロフィーへの螺旋が時系列的に描き切れている。
しかもそれを微妙なポジションにいる第三者(新聞屋)に語らせることで、冷めた視点で克明に書くことを徹底させている。
とにかくどうすれば読者が恐怖を感じるのかを知り尽くした、作り込みのレベルが高い作品としか言いようがない。
評に関しては、満点に値するだけのレベルがあったということで。