【+3】生き甲斐

怪異としては、いわゆる“霊が死の予告に来る”という病院ネタの定番であり、“前に死んだ者が予告をしに来る約束”や“確実に3日前に来る”という明確な特殊性は認められるが、さほど珍しいものではないと言えるだろう。
“あったること”だけを淡々と記録するという筆致で書かれたならば、おそらく目に留まるほどの作品とはなっていなかったかもしれない。
この作品の評価を高める原動力は、まさしくこの作品が“怪異を通して人を書く”ことに見事に成功している部分に尽きると言っていいだろう。
話者はもちろん、名前の挙がった人物がそれぞれ活写され、それが一つの思いを形成しているのである。
“達観”というのか、死を迎える人の一つの理想を体現しつつ、そこに“老いて死を直視する”という普遍的な問題への解答を内在しているからこそ、読み手の心に響くのである。
“怪異を通して人を書く”作品で成功するためには、登場人物の心情描写を的確にすることは勿論であるが、それにも増して“普遍的な真理”と言える感情的な共有価値を作り出すことが肝心である。
怪異という特殊なケースの中に置かれた登場人物から発せられる感情の発露が、普遍性を持つ内容へと昇華されなくては、本当の意味で“人を書く”ことにはならない。
ただその場限りの独りよがりな情念をダラダラと書いても共感を得ることはないだろうし、またその感情が直接的に怪異と絡んで動くようなシチュエーションでなければ“怪談”としての評価はない。
この作品は怪異を通して一つの死生観を確立させることに成功しており、またその展開の中で人物の思いが濃厚に滲み出ている。
純粋な怪異譚としては弱いと思うが、それを補って余りある“人生の縮図”をその中に見出すことが出来るが故に、“怪談”として佳作であると判断した。
“怪異を通して人を書く”作品の好例であると思う。