【−5】まさか

全く関連性のないものを無理やり繋ぎ合わせようとして失敗した作品であると言える。
体験者の身の上に起こった“体調不良”が、果たして取引先の社長の自殺とどう関係あるのかの決定的な根拠が全くと言っていいほど提示されていない。
ほとんど同時と言っていいようなタイミングで右足と首筋に異状が生じたならば、誰でも恐れおののき、その原因を必死になって思いめぐらせるのは当然である。
もしかするとそれは単純な病気ではなく、超常現象と呼ばれるレベルのものである可能性も考えることが出来るかもしれない。
だが万一それが超常現象と認めることが出来たとしても、その原因を社長の自殺とみなすことは、この作品に出されている情報では無理なのである。
まず、死んだ社長が体験者に対して怨みに思うところがあるのかの説明がないので、確たる理由となりうるだけの説得力がないわけで、もし関連性があるのならば、生前にトラブルがあったことなどの伏線が絶対的に必要だったはずである。
次に、社長の怨みの対象が首筋や右足首に集中したのか、それをにおわせる記述がない。
怨みを持ったものの復讐による傷害の場合、それなりの“符丁”が存在してこそ初めて因果性が成立することになる。
首吊りで死んだならば、首を絞めるとか窒息させるような手段を選ぶのが妥当であるし、あるいは生前に受けた仕打ちに関係する部位を狙ってくるはずである。
ところが、この作品ではそれに関する記述が一切なく、なぜ足と首に“火傷の跡”らしき異常が集中したのかの理由、それよりもなぜこの異常によって社長のことが頭をよぎったのかすら理解不能であると言って間違いない(もしかすると最後の一文にあった“アンパンマン”で社長を想起させようとしているのかもしれないが、さすがにこれだけでは意味をなさないレベルである)。
結局のところ、書き手としては“思わせぶり”によって読み手に異常事態の原因を感づかせることには成功したが、ところがそれが全く根拠のない“思い込み”の産物と思われても致し方ない内容であったために、完全にトチ狂った話にしか見えなくなってしまったのである。
創作であればまだ救いはあったかもしれないが、実話では根拠のない憶測を書くことは致命的なミスを生じさせるだけであり、全てがデタラメな話として一蹴されてしまうのがオチである。
突発的な病気を辛うじて怪異とみなして、最低評価はつけずにおいたが、実質は相当ダメな部類の作品という評価であることは明言しておきたい。