【0】抽斗より

良い意味でも悪い意味でも、安定感のある怪異の内容である。
全体の構成や文章の長さも怪異のレベルに合っており、怪異の本質を損なうことなくしっかりと書かれていると言えるだろう。
抽斗から腕が伸びて何かをやっているという展開は、怪談としてはある意味ありきたりであり、特に高く評価するべきものではないのだが、きちんとまとめて書かれいればそこそこのものになる。
そのあたりの基本ラインをしっかりと押さえてあるので、破綻なく読めるわけである。
一つだけ注文があるとすれば、体験者の声に反応して抽斗に引っ込んでいく腕のスピードが“するする”では微妙に分かりにくい。
戻る前に“ピタリと動きを止めて”おり、次のアクション次第でこのあやかしの印象が変わることが推測できるので(慌てふためくように戻るのか、それともゆっくりと引っ込んでいくのかで、随分雰囲気は変わるはずだ)、“するする”という中途半端なスピードを表す言葉だけでは、少々不親切と思った次第である。
ただ全体としては、特に大きな問題点もなく、それなりに読める作品であると言える。
可もなく不可もなくという評価が妥当であるだろう。